●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年3月号 ○
特   集
俳句の”俳”を考える
大輪靖宏、木暮陶句郎、今泉康弘、依田善朗、日下野由季
特   集
古今東西名句のエピソード/名句うらばなし
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「銀漢」伊藤伊那男  ⇒本文
俳句界NOW
大輪靖宏「輪」
甘口でコンニチハ!
阪本順治(映画監督)
特別作品21句
西池冬扇、島村 正、菊地一雄
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢27名の選者陣!

俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)

雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)

兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
鮭釣りの声裏返る日本海
北海道 榊原佐千子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
みちのくの炉心へつるべ落しかな
福井 中井一雄
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
ポリ馬穴ひとつ転がる葱畑
兵庫 前田 忍
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
枯野来てひとの死を告げすぐ返す
愛媛 境 公二
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
猪垣を鎧ひ一村峡に生く
福岡 洞庭かつら
自然保護のため、猿、猪、鹿など野獣が増えている。作物への害を防ぐため垣を回した集落も増えている。谷間に一村があり猪垣をしっかり作って生活しているのである。その様子を、猪垣を鎧ったと表現したところが面白い。野獣たちと平和に共存するための智恵である。
三四郎それから門へ小鳥来る
福岡 川崎山日子
三四郎がそれから門へ入ると、そこに小鳥が来ているという状況を描いている。巧妙に夏目漱石の三部作の作品名を続けて作ったところが面白い。漱石は 「三四郎」 を一九〇八年に、 翌年 「それから」 、翌々年「門」を朝日新聞に連載した。その小説名を材料に句を作ったとは珍しい。
鰤起し待つ漢らの口重し
岐阜 大野德次郎
富山湾の辺りでは十一月から一月にかけて雷が発生する。その雷が鰤を起こして岸に寄せるという言い伝えがある。だから漁師たちは「鰤起し」を待っているのである。 「鰤起し」の起こりそうな冥い空の下で、口重く待つ漁夫たちの姿がしっかりと描かれている。
雑詠-稲畑廣太郎・選
児の寝息歌ふがごときクリスマス
福岡 髙橋春美
今サンタクロースを信じている子供はどのくらい居るのだろう、なんて言うと身も蓋も無いがクリスマスの夜、サンタクロース役の親御さんが子供の寝室に入り、その寝息を聞くと、まるで歌を歌っているようであった。やはりサンタクロースを待っている子供の心なのである。
図書館の消しゴムの音冬に入る
東京 矢作十志夫
筆者は最近とんと図書館を利用しなくなったが、その静けさは勉強や仕事が捗るものである。おしゃべりは勿論、物を落とす音さえうるさく感じる静寂の中、消しゴムで字を消すという音無き音も目立ってしまうのである。立冬の乾いた凜とした空気が、一層季節感を醸し出している。
玉砂利のリズムそれぞれ七五三
愛知 今牧俊治
十一月十五日の前後になると、神社仏閣、最近は教会でも七五三のお祝いをしているが、この句は神社の広い境内が想像出来る。綺麗に敷き詰められた玉砂利の上を、浮き浮きした子供達が歩いたり走ったりしている。それぞれ歩幅も違う子供達のあどけない姿が可愛く想像出来る。
雑詠-茨木和生・選
**長生きの途中新蕎麦食べてをり
埼玉 茂木杏花
「長生きの途中」と作者は言っているが、百歳を目指しての途中かも知れない。果たして何歳」なのか、なにも語っていないが、おおよそ見当がつく。 「初物七十五日」などと言いながら、新蕎麦を食べたからまた寿命が延びたと笑っている。
*玲瓏の空あり鶴の来たりけり
熊本 加藤いろは
どこまでも澄み切った青空が広がっている。そんな空を「玲瓏の」と表現したのは巧みである。そんな空をかけて鶴はやってきたのである。今年初めて飛来してきた鶴である。玲瓏の空に鶴の白く美しい姿が見えるようである。
喜寿の賀の焦げもめでたき茸飯
奈良 渡辺政子
喜寿のお祝いの膳の、おそらく最後に出てきたのが茸飯である。茸飯の代表は松茸飯だが、この賀を受けている方には焦げ飯がよそわれている。わざと作った焦げ飯を何より喜んだのは喜寿の方。焦げもめでたきとは愉快。
雑詠-今瀬剛一・選
着ぶくれて鏡の中にをさまらず
千葉 山村自游
「着ぶくれ」の思いというものは案外このようなものなのではないだろうか。外見ももちろんふくらんで見えるが、それとともに心の中にもまた、どことなく違和感があるのだ。この作品の「鏡の中にをさまらず」という表現には、そうした心の状態をも感じさせる様な強さがある。
*日陰れば捨てられしごと日向ぼこ
大分 松鷹久古
俳句では一瞬の変化を捉えるということが大切である。この作品は「日向ぼこ」をしていて、その一瞬の翳りをよく意識している。それが「捨てられしごと」という言葉になった。一人の日向ぼこだったかもしれない。日の翳った時の孤独感をよく逃さずに表現したと思う。
風の子の揃ひの帽子冬田道
東京 梅村芳恵
大きく広がる冬田、しかもそこには風が吹いている。その情景の中を子ども達が歩いて行くのだ。それだけでもはっきりとした情景であるのに、作者はさらに「揃ひの帽子」であることを見て取った。登校の様子であろうか。あたかも水彩画を見る様な印象鮮明な作品であると思った。
雑詠-大串章・選
**長生きの途中新蕎麦食べてをり
埼玉 茂木杏花
新蕎麦は、少し早めに刈り取った蕎麦の実で作った蕎麦。その新蕎麦を食べながら、まだまだ長生きできると思っているわけだが、それを、 「長生きの途中」で食べている、と言ったところが面白い。自らの健康を信じて生きている人の大らかさが、さり気なく出ている。
パリにテロ湯ざめ五体に及びけり
神奈川 安室敏江
風呂から上がりテレビをつけると悲惨な映像が映っている。パリ同時多発テロ事件(平成二十七年十一月十三日)である。思わず画面に見入っている内に湯冷めをしてしまった。 「湯ざめ五体に」が湯冷めの酷さを思わせる。この湯冷めは感覚的であると共に心理的な影響もあるようだ。
石蕗の花観るは口実母見舞ふ
鹿児島 内藤美づ枝
石蕗の花を観に来たというのは口実、実は母の状態を見に来たのである。しかしあからさまにそう言うと母は喜ばない。自分は元気に暮らしている、要らぬおせっかいは止めて頂戴と言うに決まっている。そんな母の性格を知っている子の思いやりが感じられる。
雑詠-角川春樹・選
しばらくはじんべい鮫と秋惜む
埼玉 福田啓一
甚平鮫とともに、過ぎ去る秋季を惜しんだという意外性のある作品。おそらく、水族館に展示されている甚平鮫のゆったりと泳ぐさまを仰いでいるのだろう。甚平鮫のユーモラスな表情が、内省的な秋の季感と調和している
*枯はちす影ことごとく地に還す
大分 佐藤佳津
蓮は夏には青い葉を茂らせ、秋には破蓮となり、冬には蕭条とした枯蓮となる。作者は枯蓮の様子を、茂っていた葉影を地に還したと言い表している。枯蓮の上には冬の青空が広がっているのだろう。
万の鶴数ふ中学鶴クラブ
神奈川 堀田裸花子
十月ごろに日本に渡ってくる鶴の群れを、地元の中学生が数えている。クラブ活動のひとつに、「鶴クラブ」があるというのが痛快。風物詩として親しまれている鶴の群来を待ち構える、中学生たちの双眸がまぶしく清々しい。
雑詠-岸本マチ子・選
立冬の夕餉を急かす豆腐ラッパ
東京 川瀬佳穂
冬になると空気が澄んで、ラッパの音も遠く聞こえる。だから日も短くなった豆腐屋のラッパが、急かすように聞こえて来る。なんとなく追い立てられているようで、もの悲しい。今時こんなラッパがあったのが懐かしい。
金印の奴国の空を鷹渡る
福岡 洞庭かつら
金印、倭奴国王印の出た福岡県志賀島は、 『魏志倭人伝』の中に出て来る女王卑弥呼に関係するのだが、邪馬台国がどこにあったのかいまだはっきりしない。毎年寒露の頃、東南アジアを目指して鷹の渡りが見られるのも悠久の時を感じてならない。
大枯野とことん枯るる底力
広島 別祖満雄
中七の「とことん枯るる」がいい。欅や銀杏など、とことん葉を落ちつくしたあとの清々しさ。なんとも言えない。しかし、 「枯るる」にも「底力」がいるのだということに、今さらながら気付かされる。
雑詠-古賀雪江・選
寒晴に割り込むもののなかりけり
東京 戸井田英之
「大気が冴え冴えとして抜けるように青い鮮やかな空に、 割り込む隙のないことを思った。 「寒晴」の季語の身の引き締まるような厳しい語感にの季語の身の引き締まるような厳しい語感に、瑕瑾(かきん)のない晴れ渡った空が見える。そして、その寒さの中での作者の緊張も感じられる。派手な道具建てがないので安心して読める句。
*枯はちす影ことごとく地に還す
大分 佐藤佳津
秋の敗荷は冬になると、水に没し、泥の中に沈んでしまい、長い葉柄は折れたり、へし曲がったりで見るも哀れな様子となる。枯尽くし泥の中に突っ伏す蓮の蕭条たる様を「地に還す」と詠んだ。自然を凝視した結果の、自然随順の句であり、作者は自然の究極の営為を諾っている。
小春日の音を曳き行く貨車長し
三重 菊田真佐
立冬を過ぎてから春のように晴れた暖かい日和が続く事が多い。それを小春日和と言う。小春や小春日という言葉には「日和」の意味が含まれる。野を行く貨車の響きを「小春日の音を曳く」と詠んだことで、玉のような小春の日、野を長々と行く貨車と、その音の反響が聞こえて来た。
雑詠-坂口緑志・選
石蕗なだれ咲く御幣鯛調進所
三重 野口節子
愛知県の篠島は古くから干鯛(御幣鯛(おんべだい))を調整し、伊勢神宮へ神饌として奉納して来た。毎年十月十二日には、 「太一御用」の旗を掲げた船を仕立てて伊勢の神社港まで運ぶ。その御幣鯛の調進所は島の北端にあって、石蕗の群れ咲く坂を上るのである。
*玲瓏の空あり鶴の来たりけり
熊本 加藤いろは
鹿児島県出水市へ、越冬のため北からやって来る鶴であろう。鍋鶴と真鶴を合わせ、毎年一万数千羽の鶴が越冬するという。そこには麗しく輝かしい空、玲瓏な空があり、その空を目指して鶴たちは来るのだと、作者は思う。鶴には玲瓏な空が似合うのである。
鑑真の着きし海辺や石蕗の花
宮崎 岡本和子
鑑真の日本への渡海は、五度の失敗と両眼失明後の六度目にしてなされたという。上陸したのは、薩摩国坊津であった。現在の南さつま市坊津である。その昔、日本三津として栄えたという。そんな海辺の石蕗の花に囲まれ、鑑真の命がけの来日を思うのである。
雑詠-佐藤麻績・選
富士山の良く見ゆる日の七五三
静岡 大場芳子
七五三とはまさに晴れの日である。七五三を祝われる本人は勿論のことだが、両親や祖父母までが喜ばしく祝うのであろう。前々から、その日はよく晴れた富士山を見たいと望んでいたのである。晴天の富士山は一年にそれ程多くないと聞いたことがあるが、何と幸運であったことか。
**長生きの途中新蕎麦食べてをり
埼玉 茂木杏花
「長生きの途中」と打ち出した作者は、すでに長生きと言える年齢なのである。そうでありながら更に長寿を確信しておいでなのだ。それ故に季節感も敏感で、新蕎麦が出れば早々に食されるのである。積極的に食したことを一句に詠むことで更に長寿が約束されるようだ。
名月や小舟の欲しき湖の上
栃木 中村 均
湖に美しい月が昇っている。月の光は湖面に惜しげもなく注がれている。だがあまりにも静寂だ。作者の心は安らいではいるが折角の光景にもう一つ何かが欲しいと思えてきたのだろう。小舟が一艘あったらと思い至った。それは人の存在なのだ。人間は景色の中にあってこそ美となる。
雑詠-鈴木しげを・選
父ははの遠忌につどひ花の宿
茨城 片山和子
作者のご両親はおそらく高齢になって亡くなられたのではなかろう。作者はまだ子供だったかも知れぬ。父母亡きあと故郷喪失ということもあったろう。歳月を経て父母の遠忌を修するに子供達も老いてあつまる。花の咲く故郷でなく宿にである。さくらに懐旧の思いがかさなる。
**長生きの途中新蕎麦食べてをり
埼玉 茂木杏花
高齢者社会になったことで生まれたような作である。句またがりになっているが気にならない。蕎麦がまた、細く長い命を象徴する食べ物。新蕎麦ともなればなおさらのこと。長寿まちがいなしと云いたい。 「途中」といった文語になじまない言葉がここではよく効いている。
猩々緋を結ぶあぎとや風の盆
神奈川 正谷民夫
哀調を帯びた越中おわら節の三味線と胡弓の音がきこえてきそうな一句。祭りは九月一日から三日三晩。町中の男女が踊る。女踊り、男踊りとあって何とも見事な型。目深かに被った菅笠の緒が鮮やかな深紅色。これがあぎとにきりりと結ばれている。女踊りのしなやかさが目にうかぶ。
雑詠-辻桃子・選
夜神楽や湯上りの香も座にまじり
長崎 坂口かづさ
夜神楽といえば宮崎県の高千穂神楽や日向神楽。夜神楽を見に来て、辺りから湯上りの匂いがしてきたという。風呂を使ってすぐ来た人がいるのか、温泉宿の客たちが見に来ているのかもしれない。これから夜を徹して神楽を奉納する。座にまじる湯上りの香も夜神楽に溶け込んでいる。
棒立ちになりて休むや蓮根掘
福岡 松尾信也
蓮田に入り、泥だらけになって蓮根を掘る。腰を屈めた作業はたいへんな労働だ。休む時は蓮田に棒のように立つ。少しの間休んで、また前かがみになって作業を再開するのだろう。 「棒立ちになりて」が。休んでいる状態をとらえた写生。逆に蓮根掘りの大変さが伝わってくる。
*日陰れば捨てられしごと日向ぼこ
大分 松鷹久古
一人で縁側で日向ぼこをしている。ぬくぬくとして心まで温まるようだ。ふいに日が陰ったとき、作者は「捨てられしごと」と感じた。それは日から捨てられたことであり、何かから見捨てられ一人ぼっちになった感覚であったかもしれない。日向ぼこの本意を裏から言ったような句だ。
雑詠-夏石番矢・選
風花や「イマジン」我を離れざる
東京 横田眞理子
ジョン・レノン作曲、オノ・ヨーコ作詞の「イマジン(Imagine) 」は、何度聴いてもあきない名曲。この世の虚妄から目覚めて自由に生きようとのメッセージが、私たちを包み込む。「風花」はこの曲にふさわしい舞台装置。ジョン・レノンの悲劇的最期を思い浮かべると感無量。
凍てついた影法師など捨てて行く
東京 平山玲児
老いの愚痴から遠い境地。雄々しい意志が凝縮したような一句。一句の響きにも、こころよい強靱さがある。震えた字での投句ながら、この言い切りの潔さがとても魅力的だ。 「凍てついた影法師」からも解放されて、颯爽と寒い冬を歩いてゆく男の姿が目に浮かぶようだ。
花眼とて花柊を見てゐたり
東京 川瀬佳穂
森澄雄の句集『花眼』由来の老眼を指す「花眼」 。目の老いを、衰えとはとらえずに、 「花」と受け取れば、老いや衰えもまた楽しく、風雅。厳しい寒さのさなかに咲く柊の花は、白く細かい作りで、 「花眼」に明瞭に見えないかもしれないが、ぼんやり眺めるのも風流な行為。
雑詠-西池冬扇・選
天高し釣り上げられし深海魚
東京 曽根新五郎
深海魚というのは、美味なものが多いらしい。水深千メートルに及ぶ場合もあり、釣り糸を巻き上げるのに数十分もかかるらしい。魚の姿を見た時には、 船上空を見上げて、 まさに「天高し」であろう。この句は簡潔に珍しい景を述べ、季語をうまく配して作者の気持を表現した句である。
雁の棹原爆ドームにさしかかる
茨城 田中喜世子
この句は上五に主格を示す助詞が省略されているとみたい。景だけを述べているのだが、 「原爆ドーム」のように「意味性」の強い句材だと、それだけで種々の感興が湧いてくる。幾何的な「雁の棹」と原爆ドームの半円球の形状、 「さしかかる」という表現が生む映像的な効果も巧み。
今年米収めし蔵の鍵の束
山形 鈴木禧實
「今年米収めし蔵」という句材に農耕民族の一年の労働の喜びが象徴される。この句の新鮮さは「鍵の束」ということに一句の焦点をあてたことである。 「鍵の束」で蔵がいくつもあると連想させられる。また、 「鍵の束」は心に一種の衝撃を与え、 思わぬ「イメージ」の引き金ともなる。
雑詠-原 和子・選
琳派展出て風神の空つ風
兵庫 内田あさ子
琳派展は、昨年話題となった美術展。江戸中期の画家尾形光琳は「風神雷神図」の屛風で名高い俵屋宗達の影響を受け、光琳もまた風神雷神を描いている。その絵画に強烈に魅了された作品の昂揚が伝わる。まさにこの風神がもたらしたような空っ風に吹きさらされたということである。
松手入落款のごと婆の座し
山口 市川邦子
「落成の款識(かんし)の意」とされる落款は筆者が自筆の署名をする、または印を押すことであるが、今日の書画はこれまでという意味もあるそうだ。松の新葉が成長する秋。余分な枝葉を剪り捨て、松の姿を整える松手入れは気持のよいもの。その首尾を見届けた老婆を落款のようだと見立てた。
衣被塩をふられて畏まる
静岡 内藤小夜子
「衣被」が畏まるとは少し大仰にも思えるが衣被ぎならではのよろしさ、おかしみがある。里芋の子を皮のまま茹で、むいた時のつるりとした感触は素朴な秋の味覚の一つで、それぞれの楽しみ方がある。 「塩をふられて」から「畏まる」に続く俳句ならではの詠みの飄逸を評価したい。
雑詠-山田佳乃・選
枝打の尻こそばゆき高さかな
兵庫 井上徳一郎
杉や檜の枝打ちは節などを作らないために行われる。また下層の植物育成による森林保全という意味もある。結構な高さでの作業で作者はそれを見上げていたのだろう。見ているだけでもむずむずしてくるような高さである。 「尻こそばゆき」 という措辞が高さを感じさせて成功している。
先頭もしんがりもなし花野行く
大阪 中村輝雄
野原に楚々とした秋草が咲き広がっている。皆は散り散りになって思い思いの時間を過ごしている様子だ。一本道で列をなすのではなく、花野ならではの自由さが心地よい。先頭やしんがりの順序もなく居られる風通しのよい人間関係も感じさせる、大らかで伸びやかな詠みぶりである。
蟷螂の雲呼びしまま枯れにけり
大阪 髙田敏雄
青々とした蟷螂はいつしか生気の失せた枯れ色に変わっていく。闘争心剝き出しだった鎌が風が冷たくなるとともに雲を呼ぶような穏やかな様子へと変わっていったのである。枯蟷螂の姿に哀れさと死にゆくものの諦めに似た静けさを描いてしみじみと感じさせる詩情豊かな一句である。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【流】
兼題-大高霧海・選
黒き雨注ぎし川や流灯会
長野 土屋春雄
流氷来断たねばならぬ戦かな
岩手 草花一泉
巴里のテロ速報流れ冬ざるる
栃木 中村國司
兼題-高橋将夫・選
噴煙の流るる里に稲架を組む
福岡 奥苑靖子
流氷よ北方領土を連れて来い
東京 石口 榮
常節の我ら鮑の亜流者(エピゴーネン)
大分 松鷹久古
兼題-田島和生・選
流弾の跡の岸壁仏桑華
沖縄 真喜志康陽
流木や水禍の岸に荻の声
千葉 立花 洸
流行の赤きマフラーいざ買はむ
長崎 青木のり子
兼題-田中陽・選
虚子残る大根の葉は流れ去り
愛媛 境 公二
股引で手酌の父の流転ふと
東京 伏見芳村
近頃江戸に流行る日傘を娘にもらふ
奈良 吉川千鶴
兼題-中西夕紀・選
ひと搔きに火の流れたる落葉焚
埼玉 諏訪一郎
うすうすと噴煙流れ神楽宿
熊本 加藤うゐ
冬銀河夜間飛行の灯が流る
埼玉 川島 盈
兼題-名和未知男・選
父母の世へ流灯そつと発たせけり
東京 貝 啓
ふるさとに命継ぎ終へ鮭流る
茨城 斎藤 章
源流の浸み出す地層木の葉散る
埼玉 福本直子
兼題-能村研三・選
天窓は夢の入口星流る
東京 関根瑶華
源流は神住むところ山ざくら
東京 針ヶ谷里三
流寓か流謫か知らず冬籠
静岡 宮田久常





2017年| 3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2013年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2012年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2010年| 12月11月10月9月8月7月6月
定期購読のご案内
・毎月25日発売
・A5判
・定価1,200円(税込)
半年間 6,500円(700円お得)
1年間 12,500円(1,900円お得)
2年間 24,000円(4,800円お得)
定期購読は送料サービス

※定期購読割引は、直接小社にお申し込み戴いたお客様に限り、適用されます。その際、ホームページでお知りになった事をお伝えください。

※購読期間中に特別価格号が出た場合、 差額は当社で負担致します

・ご質問やご不明な点がございましたら、フリーダイヤル  0120-819-575、または、お問い合わせフォームからお問い合わせ下さい。