●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2017年10月号 ○
特   集
鑑賞力を鍛える "読み"の分かれる名句
芭蕉から現代俳句まで、読みの分かれる俳句を徹底討論
特   集
創刊121年 「ホトトギス」の魅力
俳人を輩出し続ける理由 稲畑汀子、稲畑廣太郎 他
特別作品50句
石 寒太
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、他
セレクション結社
伊藤政美「菜の花」
俳句界NOW
対馬康子「麦」
甘口でコンニチハ!
寺脇研(元文部省官僚)
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
一枚は猪のぬた場や代田搔く
愛媛 玉井玲子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
大滝の音カンバスに加へけり
東京 戸井田英之
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
余生とは使へる時間法師蟬
神奈川 日下光代
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
夏帽子投げれば鳥になる故郷
東京 高橋透水
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
不来方に馬の嘶き梅雨兆す
青森  中村洋子
「不来方」は、陸奥国の地名で、現在の岩手県盛岡市内丸にあった盛岡城の別称でもある。岩 手県は南部馬の産地としても有名であった。南部馬万節も良く知られている。不来方城内に立っ ていると、馬の嘶きが聞えて来たと思って周りを見ると、梅雨の気配を感じたところが佳い。
ほととぎす王子は幾つ熊野みち
和歌山 尾崎 均
熊野三山へ参詣する路の一つ・紀伊路には、熊野権現の末社がある。若王子を勧請し、土地の 名前をかぶせて何々王子と呼んでいる。それが九十九もある。熊野みちをほととぎすを聞きなが ら歩いていると、次々に王子がある。いくつあるのかなと思っているところが熊野詣らしい。
野馬追や一騎加勢の女武者
宮城  丸山千代子
野馬追は、福島県相馬地方の三社、原町市の大田神社、相馬市の中村神社、小高町の小高神社 が合同して行う祭で、七月二十三日から三日間行われる。騎馬武者が三社の神旗を奪い合う。そ こへ一騎加わったと見ていると、女武者だったというところが面白い。
雑詠-稲畑廣太郎・選
中将も軍曹も老い生身魂
島根  布野想夕
戦争を経験された方、して軍人でおられた方は今ではめっきり減ってしまった。そんな数少 ない経験者である。中将と軍曹ではかなりの階級の差があるが、今となっては階級の差を隔てた 仄々とした関係なのである。正に生身魂という季題が明るく伝わってくる句として好ましい。
おしまひはいつも線香花火にて
神奈川 久里枕流
最近では色々な種類の手花火があり、手に持ちながらも打上花火のような迫力のあるものや、 ロケット花火など派手なものを好む人も多いが、やはり最後はしみじみと伝統的な線香花火の落 着いた光を好む人が多いのではないだろうか。実感として締めの線香花火は大人の雰囲気が漂う。
サングラス投げ捨て闇と訣別す
長野  山口蒼峰
競技の後半でクライマックスが近付いてくると、掛けていたサングラスを投げ捨ててオリンピ ックで金メダルを獲得した日本の女子マラソン選手をつい思い出すが、何れにせよ何かの理由で サングラスを投げ捨てたのである。その強い表現が「闇と訣別」という言葉を引き立てている。
雑詠-今瀬剛一・選
紫陽花の人に疲れてをりしかな
静岡  北邑あぶみ
一気にいい下して「かな」で切る、いわゆる一句一章の叙法がよく生きている。直接的には紫 陽花がたくさんの人に見られて疲れている、つまり色褪せてきていると言いたいのであろう。た だ読者は「人に疲れてをりし」という表現から人間の姿も思う。作者も疲れているのである。
何買ふでなくて銀座を走り梅雨
埼玉  後藤清美
銀座という所の持つ不思議な魅力を流れる様なリズムでよくとらえている。確かに銀座は「何 買ふでなくて」も楽しい所である。この作品の「を」という助詞に注目した。作品の構成上はこ こで切れている。切れながら微妙に「走り梅雨」の「走り」と響き合う、この微妙な響き合い。
葉隠れの電話ボックス夏の雨
北海道 井上映子
「電話ボックス」のある場所が快く想像できる。それは一面に緑の茂った木陰にある。郊外か、 それとも公園の片隅などにでも置かれているのであろうか。そうしたところにある電話ボックス であれば、ゆっくりと話も出来よう。「夏の雨」に濡れた電話ボックスが静かに輝いて見える。
雑詠-大串章・選
父のなき子にも父の日来りけり
宮城  髙宮義治
父の日は、六月の第三日曜、父に感謝する日である。しかし、この子にはもう父がいない。あ の世へ旅立ってしまったのだ。優しかった父を思いながら、今は亡き父に感謝の言葉を述べる。 その声は、果して天上の父に届いただろうか。
万緑を映し魁夷の山湖あり
兵庫  熊岡俊子
東山魁夷には単純な構図の絵として知られる「道」があるが、緑の樹樹と山が湖に映っている 絵や、その湖の辺を白馬が歩いている絵などもある。この句、「魁夷」を真ん中に据えて、「万緑 を」から「山湖あり」まで一気に言い下ろしたところに、魁夷の絵の清気と弾力が感じられる。
扇遺し母の闘病終りけり
大分  金澤諒和
闘病生活を続けた後、母は静かに息を引き取った。遺された「扇」は、母に最後まで涼風を送 ってくれた扇である。生前、母はこの扇を大切にしていた。いろいろな思い出が籠っている扇だ ったにちがいない。涼しい風に身をゆだね、おだやかに目を瞑っていた母の顔が忘れられない。
雑詠-大牧広・選
而うして元の二人や茗荷汁
千葉  原 瞳子
「元の二人」とは、夫婦二人きりになったということである。子供達はそれぞれ独立して、家 は夫婦二人きりとなってしまった。もとの平安な生活がもどっての食卓の茗荷汁が、夫婦の気持 を表わしている。
甚平で行きたき書肆の店じまひ
千葉  立花 洸
「甚平」というふだん着で気軽に行ける本屋があったが閉店してしまった。そのことをふっと 忘れて出かけようとしたが、その本屋が閉店してしまったことに気づく。軽い失望感が、胸をつ つむ。
中将も軍曹も老い生身魂
島根  布野想夕
働き盛りの現役時は、中将であり軍曹であった人も、すっかり老いて生身魂になってしまった。 歳月のうつろいの淋しさが、つくづくと身に沁みてくる一句。
雑詠-角川春樹・選
万緑や橋を引き合ふ島と島
福井  木津和典
万緑は、夏の大地にみなぎる生命感を表現する。掲句からは、青々と豊かな木々に覆われた島 と島を結ぶ橋に注目して、擬人法を用いて描写している。中七の「橋を引き合ふ」という言葉が、 万緑の生命感を負った措辞となっている。
一日の影廻しきり大夏木
大分  龒現寺敏子
夏木は、一本の木を言い、夏木立だと木々の群がっているものになる。掲句では、「大夏木」 ということで、木の周りの空間を描く。大夏木が、ちょうど日時計のように影を動かすことを言 いとめた上五中七の措辞に、魅力を感じた。
入梅や空き丼がドアの外
兵庫  井上徳一郎
最初の頃は梅雨に入ったという実感ははっきりとしないものである。返却のために置かれた出 前の丼と、発表された入梅を結びつけたところが、作者の発見である。取合せの妙のある佳吟で ある。
雑詠-岸本マチ子・選
道の駅互ひに西瓜抱きて遇ふ
京都  森 都々路
その道の駅は西瓜が特においしかったのでしょうか。うきうきと西瓜を抱えて、ふと見ると友 だちも。お互いに悪い事でもないのにもじもじしてしまう。西瓜って、そんな気まずい思いあり ますよね。
山笠を継ぐ孫の締め込み逞しき
福岡  楢﨑恵一郎
山笠といえば、特に、福岡の櫛田神社の祇園山笠が有名です。男達の締め込みの凜々しさ、代々 続くそんな男達の挑戦に、思わず子ではなく、孫へのエール。おじいちゃんは何よりも孫の成長 が嬉しいのだ。
心天渓流の音も啜りけり
山形  横道輝久子
関東周辺は沖縄より暑い。そんな時、長瀞の渓流を聞きながらのところてん。さぞおいしいと 思う。その上、渓流の音も啜るなどと、何とも素晴しい。
雑詠-古賀雪江・選
短夜を繕ふ糸を長くして
奈良  吉川千鶴
夏至の頃は最も夜が短い。四時ごろにはもう夜が明けかかる。理屈の上では日が長いと言うこ とではあるが、この句はそういう事では無くて明易い心持に重きを置いた句である。「繕ふ糸を 長くして」の措辞は、効率よく繕い物を片付けたい心と短い夜を嘆く心、惜しむ心が感じられる。
羅をたたみて夜を寂しくす
埼玉  鈴木まさゑ
絽、沙など織物を薄く軽やかに織ったものが羅であるが、先頃のような異常な天象ではなかな か涼やかに着こなすことが難しい。そんな羅を装っての一日が暮れて、今日の事を思い起しなが らそれをたたんでいると、ふっと寂しくなった。この羅が喪服の羅であったら殊更であろう。
いつみても後ろ姿の遍路かな
福岡  矢野二十四
弘法大師の巡錫された跡をたどり、四国八十八か所の霊場を参拝する遍路。先頃では、特別 信仰心がなくても、お遍路さんとなって心を鎮める旅に出る人も多いと聞く。「いつ見ても後ろ姿」 に、いかに遍路の姿を日々見かけるかという事が思われる。平易で分り易い句である。
雑詠-坂口緑志・選
基督のやうな遺影や桜桃忌
神奈川 劔物劔二
太宰治は昭和二十三年六月十三日、山崎富栄と入水自殺をした。良く知られた遺影は、キリス トの写真が残っている筈もないのだが、キリスト然とした雰囲気が感じられる。太宰自身そう言 われることを良しとしていたとも聞く。キリストに似ていると、改めて思う作者なのであろう。
蟻の道俳聖殿へつづきたる
滋賀  下野たづ
松尾芭蕉は三重県の伊賀に生まれた。伊賀市の上野城近くには、芭蕉の旅姿を模して造られた 俳聖殿がある。毎年十月十二日に俳聖殿において芭蕉祭が催される(芭蕉の忌日は陰暦の十月十 二日である)。そこを目指して蟻の道が続いているという。芭蕉の旅路へ繋がっているかのようだ。
鑑真忌われに寄り来る蝶のあり
東京  田山勝美
鑑真忌は陰暦の五月六日である。何度も日本への渡航に失敗し、失明しながらも、六回目の渡 航で日本へ辿り着いたのである。そのような鑑真を思うとき、その心情を察するかのように蝶が 寄り添ってくると言う。蝶も人の心から、何かを感じ取っているのかも知れない。
雑詠-佐藤麻績・選
ほたる狩り妻はほたるに粧へり
神奈川 三枝清司
夫妻揃って「ほたる狩」に行くことになった。作者は直ぐ出掛けるつもりでいたのだ。すると 「少し待って」という妻、見れば鏡の前で身繕いをしている。化粧直しなどもする気配に驚くば かり、これが女性というものかとあらためて思ったのだろう。
なつかしき村の匂ひや夏芝居
神奈川 佐藤蘭子
この芝居は大劇場などで行われるものではなく、地方で夏だけ催される簡素で楽しい芝居、即 ち素人の演じるようなもののようだ。これは観客と一体となってなかなかよいものだ。そこには 郷愁があるからだろう。それを「村の匂ひ」と表現されたのである。
跣足にて鞍なき馬に島娘
広島  伊藤孝子
「跣足」は夏の季語だが、この島娘は夏でなくても跣足で、しかも鞍もつけない馬を自在に乗 り熟すことが出来るのだろう。その島に生まれ育って働く若い女性、実に魅力的である。こんな 島娘に会えたら、作者のこの旅は愉快だったに違いない。
雑詠-鈴木しげを・選
水喧嘩制して祖父の帰りけり
京都  林 力朗
農家にとって水は生命線である。今日では灌漑用水が整っているので水喧嘩は少なくなってい ると思う。水口の石一つ動かすことで水の供給量は変わる。「水盗む」「水番」の季語もある。水 喧嘩を制することが出来るのは信頼の篤い村の古老。作者の祖父はまさにその人である。
我が胸に手術痕あり巴里祭
神奈川 堀田裸花子
巴里祭はフランスの革命記念日。七月十四日。シャンゼリゼ通りはさまざまなパレードで賑わ う。日本のパリ祭は、シャンソン歌手による競演も一時ほど高まっていないようだが、作者の青 春に闘病の日があり、今その苦しみにうち克った自分がいる。遠き日の鮮烈な巴里祭が胸にある。
父の日の息災に置く湯呑 かな
埼玉  福田啓一
母の日も父の日も、アメリカからきたそうであるが、日本でも定着している。父母への感謝に 差はないけれども、母の日に比して父の日は忘れがちである。掲句は父の日の作者自身の一句。「息 災に置く」がいい。とくに父の日を意識していないのである。
雑詠-辻桃子・選
河童忌や電車より見る田端の灯
東京  中村わさび
「河童忌」は、芥川龍之介の忌日。芥川の自宅である我鬼窟には、室生犀星はじめ俳句を余技 とする多くの文人が出入りした。芥川を中心とした交友は田端の文士村と呼ばれた。この句も、 田端の文士村を山手線の電車から偲んでいる。「田端の灯」がその時代を彷彿させる措辞だ。
船の灯を迎へ入れたる灯の涼し
兵庫  稲谷有記
夜、港に入ってきたのは客船だろうか。長い航海の果てにこの港に来たのだろう。作者は、そ の船の灯を港の涼しげな灯が迎え入れていると感じた。「涼し」に両方の灯に寄せる作者の気持 が出ている。「灯を」「灯の」と言葉を重ねたことで、しみじみとした旅情が醸し出されている。
棟梁の声よく通る梅雨の晴
東京  佐藤多美子
棟梁は、家普請をしている大工の棟梁だろう。仕事休みが続いたが、梅雨晴のこの日、若い者 を引き連れて現場に出た。棟梁の声がよく通るという。張りのある声で若い者に指示を出してい るのだ。久しぶりに晴れの日を賜った棟梁の張り切る様子が伝わってくる。
雑詠-夏石番矢・選
無音ではあるが無言ではない黴
埼玉  浅野 都
同時投句の他の平凡な二句とは異質な秀句。かつて黴をこう詠んだ人はいなかった。音無きミ クロの世界に、黴から発せられる言語はどういうものか? そして、その内容は? 黴たちにし か理解できない言語の秘密に、俳句で接近できたのはすごい。五・八・四音のリズムも効果的。
陽炎へ向かへと脳が我に言ふ
京都  黒金祥一
まじめな作者に、逸脱の喜びを私の選句が教えてしまったかもしれない。同時投句の〈哀しく て同性愛の蛙達〉は表現を直せる。選出句は、多重人格者の状態か。陽炎への旅は、自己の無化 と自由をもたらすのか。あるいは波乱と破滅をもたらすのか。魅力的な物狂いは日本文学の伝統。
薔薇真紅にぎり潰して愛しけり
神奈川 神野志季三江
通常とは違う作風を探っている作者。その試行錯誤は始まったばかり。同時投句〈七月やとき どき黒い風が吹く〉は、まだ推敲が足りない。選出句は、愛憎の心理をうまくまとめて詠んでい る。愛憎劇は、人間のみならず生き物につきまとう残酷な真実。薔薇が残酷さに美しさを添える。
雑詠-西池冬扇・選
山椒魚頭ゆすつて浮かびけり
愛知  石井雅之
有名な小説がある山椒魚は、俳味のある両生類。だいたいの句が面白そうにできあがる、イメ ージ豊かで重宝な季語でもある。掲句は、何も語らずにシンプルな句意をすっと表現したところ が好ましい。山椒魚を「はんざきの」とでも表現したら、この山椒魚がきっと気分を害したろう。
魔術師の口よりひとつ枇杷の種
広島  塚本みや子
この句の構造自体は単純であり、シーンも単純だが、ちょっと考えると何となく面白いという 句である。その意味では機智が支えているともいえるが、読む方もすなおに、何となく面白いと いうことを楽しめばよいのであろう。いずれにしろイメージが鮮明であることが良い句を生む。
蟻の道行きつもどりつもどりけり
東京  藤井和子
ごちゃごちゃしたようなひらがなの羅列に蟻の行列を感じ取る。そのような作りの句があって も良い。蟻は行きつ戻りつしながらも目的地に向かう。作者は観察して、このように表現せざる をえなかったのであろう。実はこの世は分子ですらあちこちしながら統計的な運動をしているのだ。
雑詠-原 和子・選
ひらひらと末子は気まま金魚草
京都  西村滋子
句意から推して、末子は女の子であろう。同じ家に育つ姉妹でもそれぞれ性格が違うが、とか く末子は気儘に見える。夏の陽光の中で、濃赤に始まり色とりどりの花を咲かせる金魚草。お洒 落で愛らしい花さながらに、末子の振る舞いは一家の彩りとなっているのだろう。
船の灯を迎へ入れたる灯の涼し
兵庫  稲谷有記
四季折々に灯る火は、四季の情を映し出す。夏の灯のよろしさは、火影の涼しさにある。夜の 港の景を灯の動きで描写しており、心情が籠る。航海の船の灯よりも迎え入れる港の灯の方に涼 しさを見出したところが、掲出句の見所である。
筑波嶺に雲の立ちたる夏祭
千葉  三山 九
筑波山は「西に富士、東に筑波」と称されるほど優美な山である。平野の中にあり、いずこか らも眺めることができる。男体山と女体山の二つ峰からなる山はそのものが神とされ、筑波嶺に 立つ雲は神意の表れであろう。夏祭を占う景として似つかわしい。
雑詠-山田佳乃・選
団欒をすこし離れて蚊遣香
東京  伊藤たか子
「蚊遣香」は、殺虫剤と違って優しく効くので今も夏には欠かせないものである。夕食後の団 欒の時間に焚くのだが、人の通らない少し離れた場所に置く。普段の何気ないことであるけれど も、そんな様子をしっかりと描写することで、立体的な空間が描かれリアリティが感じられる。
糸とんぼ草に軽さを預けをり
愛知  山口こひな
赤や青の美しい色のか細い胴に儚い翅をもつ糸蜻蛉。池沼のほとりを飛び交う姿に心惹かれる。 時折、草の先で翅を合わせては静止しているのだが、幽かな重さしか持たないのだろう。「軽さ を預け」るという省略の利いた表現で糸蜻蛉の様子を表現したところが巧いと思う。
松蟬のかそかに鳴ける勅使門
兵庫  熊岡俊子
松蟬は、早々と五月ごろより鳴きはじめる。勅使門は普段閉ざされているので、その静かな様 子とまだ涼しい頃の松林をイメージさせる「松蟬」という季題により、作者の立ち位置がよく見 えてくる。「かそか」とは「幽か」の意で詩語として時折使われている。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【白】
兼題-大高霧海・選
万霊や白日ふすぶ沖縄忌
愛媛 境 公二
あの日より日記の白し原爆忌
滋賀 下野たづ
みちのくの喪中のやうな白雨かな
東京 曽根新五郎
兼題-高橋将夫・選
かの世まで白黒つけに大午睡
茨城 青木まさを
あじさいの白地染めゆく浮世風
東京 岡田敏彦
浜風に語尾さらはれし白日傘
東京 関根瑶華
兼題-田島和生・選
白木なる鳥居をくぐり田植笠
熊本 荒尾かのこ
海霧を出て海霧より白き汽船かな
青森 神保と志ゆき
白粥に玉子落して酷暑かな
埼玉 福本直子
兼題-田中陽・選
戦争の始まっている白泉忌
北海道 塩見俊一
モネの絵の白いパラソル真似てみる
大阪 毛利美子
白シャツや戦なき世を生きて老ゆ
青森 福士信平
兼題-中西夕紀・選
白南風や奄美の夜の唄あそび
東京 徳原伸吉
白墨の美しき数式麦の秋
神奈川 大矢恒彦
白みゆく樹々へ笛の音神楽果つ
宮崎 岡本和子
兼題-名和未知男・選
月涼し李白に酒量及ばねど
熊本 加藤いろは
白南風に明け暮れ番屋鳴りにけり
北海道 藤原冬人
白地着て帰る故郷なかりけり
埼玉 川島 盈
兼題-能村研三・選
白樺は紙の手ざはり辰雄の忌
鳥取 石渕さゆり
白日傘ひらいて今日の翼とす
兵庫 飛鳥もも
白靴を履かせてくれし納棺夫
東京 杉本とらを





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