●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2018年7月号 ○
特   集
久保田万太郎
~万太郎の俳句はなせ愛されるのか?
安立公彦 寺島ただし 鈴木直充 青山丈 浅井民子 八木健
特   集
漂泊三人
一茶、放哉、山頭火
玉城司 鈴野海音 西村麒麟
特別作品50句
大竹多可志
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、他
セレクション結社
「四万十」亀井雉子男
俳句界NOW
増成栗人「鴻」
甘口でコンニチハ!
塩村あやか(元東京議会議員)
親子響詠
黛執×まどか
私の一冊
環順子「パティオ」
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
歩行マシン離れて今朝の青き踏む
神奈川 金澤一水
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
崖氷柱一滴づつの日のひかり
福岡 奥苑靖子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
沈みゆく鯉の背中の朧かな
愛媛 片山一行
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
春障子討ち入りのごと悪友来
佐賀 萩原豊彦
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂 未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、原和子、山尾玉藻(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
つちふるや島の高みに烽火台
福岡 松尾信也
晩春、蒙古や中国北部から多量の砂が偏西風に乗って飛んで来る。玄海灘の島の高い所にある 烽火台は、昔、外敵の来襲などを緊急に知らせるために作られた。鎌倉時代、元の軍隊の来襲時 には活躍したに違いない。その蒙古から飛んで来る黄土と烽火台を結びつけたところが面白い。
春月を円く映すや月牙泉
愛知 石川峰男
月牙泉げっかせんは、敦煌の鳴沙山めいさざんの麓にある泉である。 莫高窟ばっこうくつを見学した後、夕刻月牙泉のまわりを散 歩したのであろう。満月に近い大きな春の月が、月牙泉に映ったのである。月牙泉らしく牙のよ うに細い月も美しいが、円い月であったところが、月牙泉の光景をより美しくしていたのである。
単身の赴任静かに目刺焼く
北海道 金山敦観
若い時代、単身で新しい任地へ赴いたのである。夕食の準備に目刺しを焼いたということを思 い出して作った句であろう。勿論、現在単身で赴任して来た人のたたずまいを写生したとみても よい。「目刺焼く」という季語が佳く働いている。
雑詠-稲畑廣太郎・選
春泥をえぐりし鯉の尾鰭かな
神奈川 中野しおん
普段はあまり雪の降らない地方に珍しく雪が積ったような印象を受ける。子供達は嬉々として 雪だるまを作って遊んで、帰る時間が迫ってきた。勿論雪だるまを持って帰ることは出来ず、子 供も別れは辛いが、雪だるまの側から見ているところが面白い。溶けているような印象もある。
大体は一勝二敗猫の恋
福井 大森弘美
春になると、異様な鳴き声で人をも驚かす恋猫の仕草であるが、猫達にとっては激しい生存競 争の一環でもあるのだろう。恋の相手には手強いライバルも居て、この時期は猫も必死なのであ る。全部の猫が一勝二敗というわけでもなさそうだが、具体的な数字に諧謔味が見て取れる。
夙川も鳥雲に入り色を待つ
兵庫 幸野蒲公英
阪神間を知っている人ならこの夙川(しゅくがわ)が西宮市の花の名所であることはすぐ判る だろう。それほど広くはないが、夏には蛍も飛ぶ風情溢れる川も流れており、この時期のこの地 の季節の移ろいを見事に捉えている。筆者も関西で生まれ育った者として、自慢できる景である。
雑詠-今瀬剛一・選
芽柳や川に沿ひゆく蔵の町
島根 東村まさみ
「芽柳」「川」「蔵の町」、そうした言葉がしっとりとした日本的な風景を思わせる。しかもそ の川沿いには道があり、そこを作者は歩いている。静かな、心満ちたりた歩みであろう。作品全 体から心地よい風も感じられる。たくさんの蔵や芽柳、それは水面に映っていたに違いない。
踏青やはるかに仰ぐ比良比叡
東京 薬丸正勝
前方に広がる「比良比叡」、その大きな情景に向かって作者は胸を張って歩いている。しかも その「比良比叡」は「はるか」であるために少しも息苦しさはない。堂々たる踏青。「踏青や」 と上五で切り、「比良比叡」と句末を名詞で止める形式が、大景を表現して揺るぎがない。
花果てし社殿は神と風ばかり
兵庫 塩谷忠正
少し前まで桜で賑わっていた神社、その華やぎの後の静寂をよく表現している。「神と風ばかり」 と力強く言い放った表現がいい。人気のない社殿を風が吹き抜けている。そうした情景に神を感 じている。賑わいの後に神々しさを取り戻した神社の存在を奥深く確かに捉えている。
雑詠-大串章・選・選
約束の土筆は核によごれたり
栃木 山口 勝
第二次大戦終結後も世界各国で核実験が行われ、放射性物質が世界中にばらまかれた。わが国 に関わるものとしては第五福竜丸の被曝や北朝鮮のミサイル発射などが記憶に新しい。掲句は川 端茅舎の代表作〈約束の寒の土筆を煮て下さい〉を踏まえ、現代社会の不条理を糾弾している。
朱鳥忌をいくつも重ね朴芽吹く
福岡 神谷大河
朱鳥忌のたびに野見山朱鳥の代表作〈火を投げし如くに雲や朴の花〉を思い出し、朴の芽吹き を見上げる。朱鳥忌は二月二十六日。この句と前の「約束の土筆」の句を読むと、朱鳥の処女句 集『曼珠沙華』に記された虚子の有名な序文「さきに茅舎を失ひ今は朱鳥を得た」を思い出す。
言霊の恵みをねがひ青き踏む
神奈川 宮島流星
ひたすら俳句を作っていると、ふっと言葉が浮かんでくることがある。天恵としか言いようの ない恵みの一瞬である。私たち俳句作りは、その貴重な一瞬に出会うべく、句帳を持って春の野 山を歩きまわる。この句、〈言霊の恵みを希ひ青き踏む〉と一気に言い下ろしたところが良い。
雑詠-大牧広・選
母知らぬ子や大学に合格す
栃木 石井 暁
「母知らぬ子」は様々な事情を思い起こさせる。物心ついた時、母はすでに亡くなっていたか、 または別の事情によって母という存在を意識していない子であったか、とにかく希望の大学に合 格することができた。よくある人間模様だが、中七の「や」の切字が心からの共感を呼び起こす。
あたたかや遊女の墓は石一つ
栃木 長谷川洋児
哀れな遊女の一生、その哀れを悼むには石一つのみ。不幸な人の一生をなぐさめるため、せめ て暖かい石をその気持としたい。「石一つ」の簡易な表現が、かえって不幸のまま逝った遊女の 魂をなぐさめるかもしれない。
三月や忌日あまたの国に棲み
埼玉 柴田獨鬼
「忌日あまた」は、大地震、大津波、原発事故と、かの日の三月を述べているのであろう。「住 み」ではなく「棲み」とした点は、その折の人々の気持を屹立させたものであろう。
雑詠-櫂 未知子・選
豆雛をのせて老いの手よみがへり
千葉 吉原清子
○どれが雛の顔か体か判別しにくい「豆雛」。しかし、だからこそ、小さなてのひらにのせた時 にはなやかによみがえる。この句、「老いの手」のつつましさがいい。無欲さの勝利と呼べるだ ろう。
蒙古風静かに空を奪ひけり
神奈川 長谷川如空
「蒙古風」。つまりは霾る風のこと。この季語に正面から向かい合った姿に感嘆するしかない。 多くのことをいわずに、季語のありようを丁寧に「静かに」描いたことを、大いに評価したい。
滴りを纏ひをんなの出来上がる
東京 向瀬美音
多分に感覚的な作品である。しかし、それがまた心地よい。きらめく「滴り」を身にまとい、 この女性はまた一歩踏み出すのだろう。華がありつつも、どこかしら寂しさも滲む作品である。
雑詠-角川春樹・選
あたたかやお腹の中に夫の腎
兵庫 松本節美
季語「あたたか」は、春の訪れを感覚的に言いとめたことばである。掲句のように、生命が活 発になる時節柄、おのずと己のいのちをかえりみることにもつながるのだろう。腎移植を夫婦で 乗り越えたというモチーフにとても惹かれた。
やあ凧よ原発と基地いくつ見ゆ
埼玉 関根道豊
俳句では、笑いや風刺の精神も大事にしたい。掲句では、高々と上がる凧を擬人化して呼びか けた点がおもしろい。そして、原発と基地という重厚なテーマを十七音のなかで取り上げること に成功している。
霾や他郷知らざる母の墓
岡山 生田恵祐
「霾る」とは、中国北部やモンゴル地方で舞い上がった砂が、日本まで飛来して下降する黄砂 のことである。移動や漂泊を連想させる黄砂と、家郷にまっとうした母の生涯があざやかなコン トラストをなしている。
雑詠-古賀雪江・選
末黒野の黒を鎮める小糠雨
兵庫 井上徳一郎
早春、害虫駆除と新しく萌え出る草の生長を容易にするために枯れ草を焼き払う。そのあとに 焼け残った萌草が地に張り付いていたりするのを見かける事もある。「黒を鎮める」には、音な く降る雨の野の無韻の様子と、焼け跡がじっとりと濡れて雨に黒々と沈んでいる景が見える。
人込みのひととなりゆく花衣
静岡 風化
桜時には、その咲いている様子を見たいと出掛けるものである。花見どころでは、花の下を浮 かれ歩く人や、花筵で酒を酌んで楽しむ人々で混み合っている。名所と言われるところの人出は 殊更であって「人込みのひととなりゆく」その通りである。
野に遊ぶ子に生ぐさき匂ひして
三重 岡田良子
春の野山を駆け回って、草を摘み、野川に魚を追い、草の上を転げまわって遊んできた子供か ら、生ぐさい匂いがしたという。真上から太陽を浴び、どうかすると暖かさを通り越した春の暑 い陽気の日だったのかも知れない。野遊びの子供の汗には草と土の匂いがした。
雑詠-佐藤麻績・選
竜天に登るやメダル嚙んでみせ
秋田 野越三雄
竜は神聖視された想像上の動物です。この季語は中国から出た万物が生動する春の盛んさを表 現しています。一方「メダル嚙んでみせ」は先日のオリンピックで金メダルを取った日本選手の 喜びの仕種です。国の代表として勝利した喜びはまさに天に登るようでこの季語にぴったりです。
鉄棒が見ゆ薄紅梅の母校
山口 槌崎 道
下五の「かな」を取り、変形になりますが五七五にしました。母校の前を通った折、在学中の 思いのままに目をやると懐かしい鉄棒が見えたのでしょう。当時の思い出が蘇って来て、よく見 ると薄紅梅が咲いている様子が捉えられたのです。淡い思い出が一句となったようです。
蝶の昼ダリの時計の螺子を巻く
長野 秦 順子
ダリはスペインの画家。写実的手法で夢や空想の世界を描きました。宝飾などの装飾美術で知 られています。ここでの「ダリの時計」もそのような装飾的時計のように思います。その「ダリ の時計」の螺子を巻くとは、楽し気なものでしょう。いかにも蝶の昼の季語が相応しいようです。
雑詠-鈴木しげを・選
汐干狩貝を詰めたる袋立つ
神奈川 矢橋航介
暖かな浜風が吹きはじめると一家で磯遊びや汐干狩に出かける。ぼくの子供の頃は千葉の稲毛 海岸が有名であった。汐のひいた遠浅の砂地は大勢の家族連れの声で満ちあふれていたものだ。 採った貝を詰めた袋が立つほどの大漁。いい視点で景を切りとった作である。
麴の花立ちて三寒四温かな
福岡 艶子
麴を使用した料理は体にいいばかりか、味をまろやかにすると云う。蒸した米や麦や豆などに 麴菌を繁殖させたもので、酒や味噌の醸造には欠かせない。掲句は、淡い黄色を帯びた麴の花が 「立ちて」と表現されたことで美味が約束された。三寒四温の時の経過がいい。
駅弁のふたの木の香や山笑ふ
東京 松尾正晴
旅行のたのしみの一つに、駅弁を食べるたのしみがある。その土地の名産が小さな箱の中に咲 いている。駅弁のふたが木で出来ている。木の香は杉であろうか檜葉であろうか。うれしくなっ て車窓に目をやれば、早春の息吹きをまとった山々が、笑うが如く迫っている。
雑詠-田島和生・選
雪解田に沿ひ一列のランドセル
富山 そうけ島紀代子
作者の住む富山は今年、雪が深く、春の訪れも遅かったようである。新学期を迎え、新一年生 の子たちが広い水田に沿う道を一列になって学校へ向かう。田に残る雪も溶け始め、立山連山が 映る「雪解田に沿ひ」で一息入れ、「一列のランドセル」と手堅く詠み下し、妙味豊かである。
畑返す母に通知簿見せに寄る
愛知 玉木尚孝
三学期の最後の日だろうか。小学生の子が学校の帰り道、畑打ちに懸命な母親を見かけ、「た だいま」と駆け寄る。ランドセルから通知表を出して見せる。母親は鍬を置き、「どうだった」 と子に笑いかける。畳みかけるような表現で、実感もあり、微笑ましい母子の姿を彷彿とさせる。
指先に光浴びたる茶摘かな
東京 向瀬美音
茶摘みといえば文部省唱歌「茶つみ」の「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る ……」でよく知られ、季節感あふれた農風景である。掲句は、輝くような茶の若葉を丁寧に摘む 指先に焦点を当て、「指先に光あびたる」と詠み上げ、感性豊かで、大変味わい深い。
雑詠-辻 桃子・選
泣き尽くし色の褪せたる涅槃絵図
静岡 阿久津明子
この涅槃図は年代が古く色が劣化して褪せているのだろう。作者は、それは涅槃に立ち会った 弟子や菩薩や鬼など、生きとし生けるあらゆるものが泣き尽くしたからだという。このとらえ方 が悲しみを浮き上がらせているが、中七を「色褪せたるや」と切ると、より鮮やかになる。
春子干す火山灰よなのゆくへを見定めて
鹿児島 川路惠子
春雨は、「細い雨が静かにしとしとと降る」というのが本意だ。この句の春雨は、あまりにも 冷たくてとても濡れてゆくどころではない、と詠む。いったいどうなっているのか、という気持 だが、それでも春雨は春雨。艶っぽい雰囲気も醸し出している。
手足出て亡び始める蝌蚪の国
埼玉 橋本遊行
一読、村上鬼城の〈川底に蝌蚪の大国ありにけり〉を思い浮かべた。この蝌蚪の大国も足が出 てくると亡び始めるという。数えきれない蝌蚪の群れも天敵にやられるなどして数を減らし、足 が出、尾が短くなり、蛙になってこの国は消滅する。その兆しを蝌蚪の足が出るときに見た。
雑詠-夏石番矢・選
必然なき森の会議深き嘔吐
鹿児島 宏洲 弘
六・六・六音の硬く重たい響きの秀句。内容が、なごやかなものでないからこうなる。「必然 なき」会議は、議論の必要のないことがらをただ延々と続けている。これに対して作者は「嘔吐」 を差し向ける。この「嘔吐」に、「深き」という強調が、鋭く響く。国政批判とも受け取れる。
梅を嗅ぎ悟空は怒り鎮めけり
京都 黒金祥一
「孫悟空」は『西遊記』主人公の道教上の法名。蟠桃園の管理を任され、不老長寿の桃を食べ て、仙界から逃走。この俳句では、「梅を嗅」ぐ。これは微妙な表現で、男色の比喩とも解釈で きる。「悟空」は「空」など悟らず、暴れまわる雄の野性の権化。その俳諧的展開を実践した句。
心臓の弁の欠落春の泥
石川 山下水音
先天的に身体の欠落をともなってこの世に生まれ出ることは、偶然だろうか、宿命だろうか。 この現実はともかく重い。特に臓器のかなめ「心臓」の弁膜が欠けているとは! この重い現実、 この重い表現を、切れで転換して「春の泥」で受け止めたところが絶妙。この世は「春の泥」か。
雑詠-行方克巳・選
霾ぐもり顰めつ面の月昇る
東京 岡田敏彦
黄砂が一日空を覆っていた日が暮れ、何だか顰めっ面をしたような月が昇ってきた。今時の黄 砂は単に自然現象というに止まらず、文明のもたらす汚染そのものという感がある。月の渋面も その反影でもあるのだ。
よく売れる婆の草餅道の駅
神奈川 山田美樹子
最近、幹線道路沿いにその地方の名産品などを販売する、道の駅なるものが設けられるように なった。その土地ならではの手作り品なども売る。この句の草餅は土地の人がそのうまさを知っ ているから、並べるとすぐに売り切れてしまうのだろう。
白ワイン冷やそアスパラガス届く
東京 染谷紀子
いかにも新鮮そうなアスパラガスが届いた。食いしんぼうの作者はすぐに「さあ、これに合う 白ワインを冷やさなければ」と思ったのだ。勿論その夜の食卓の主役はアスパラガス。よく冷え たワインが食欲をさそう。
雑詠-西池冬扇・選
大阿蘇やアスパラガスは伸び盛り
福岡 生田裕子
脈絡はないのだが、「アスパラガスにはかないません」は時々、突然思い出す宮沢賢治の童話 中の一フレーズ。アスパラガスの株を育てて年々太くなるのは嬉しい。背景には噴煙の上がる大 阿蘇、ジオパークと呼ぶのをためらうほどの大地の生命力そのもの。句のイメージが心に響いた。
ただいまの声太くなる立夏かな
東京 田島映子
「ただいま」、挨拶の声が太くなったという。少年の声が大人びて野太くなったのだろう。時 は夏、万物が伸び盛る季節、その趣を詠じた。「太くなる」という口語表現が、ふさわしい。「や」・ 「かな」が口語体でも威力を発揮する現代の俳句ならでは、の世界だ。言葉は生きている。
どの角も折り目正しき紙雛
佐賀 大石ひろ女
紙雛でも折紙の雛だろう。「折り目正しき」がポイント、礼儀作法に適っているという意で使 われる言葉だが、この場合は文字通り紙の角がきちんと折られている意。雛の端正さに通じて心 地よい。和歌・短歌と異なり俳句は言葉の重意を避ける傾向にあるが、この句では成功している。
雑詠-能村研三・選
紐掛けて捨てられぬ本鳥曇
鹿児島 内藤美づ枝
長い間整理していなかった書庫を整理することにした。読むことはない書籍を捨てることにし たが、どうしても捨てられない本があった。学生時代に読んだ本で、自分の思想形成に大きな影 響を与えたもので、数十年紐を掛けて埃をかぶった状態で書庫に眠っていた。季語が効いている。
煌めきの音を重ぬる春の川
熊本 石橋みどり
春の川の煌めく流れのむこうの山裾に桜がけぶるように咲いている。雪解けの水が山々のいく つもの川から音を立てて流れ込む。春の日に照らされきらきらと光を放っている。平明な句だが、 だれもがこんな光景を見たことがあるなあと思わされる。既視感を与えるのはよい俳句だ。
奉納の三方はみ出す桜鯛
埼玉 吉澤純枝
桜鯛は桜の咲くころ産卵のために内海や沿岸に近付く真鯛のこと。結納や結婚式などの目出度 い儀式にかかせないのは、鯛の美しい形だけでなく、真鯛の夫婦は契りが固く一婦一夫を守ると いう説があるから。三方をはみだすくらいの立派な鯛であった。
雑詠-山尾玉藻・選
料峭やかたち変へゆく雲一朶
兵庫 田麦かつ江
「かたち変へゆく雲一朶」の表現から、晴天でありながら上空では強い風が吹いているのが見 えて来るようです。その点でいかにも「料峭」の季節らしい張りつめた一景を切り取って成功し ています。これこそ写生の力ですね。
往診の医師の私服の春めけり
京都 岡井香代子
この医師は白衣を着ていないか、白衣をざっと引っかけただけなのでしょう。医師の着ている 明るい色のシャツやセーターに春の到来を実感している点を好もしく思います。描かれた情景や 感応から温かな明るさが伝わり、非常時の往診でないことも想像されます。
太陽に呼ばれし順に蕗の薹
茨城 林きよ子
目を凝らすとあちらこちらに大小の「蕗の薹」が見られたのでしょう。少し長けているもの、 首をもたげているもの、微かに頭を出しているもの、それらを「太陽に呼ばれし順」と見立てた点 に独自性があり、この感覚になるほどと感じ入りました。
兼題
選者:大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)
今月の兼題…【崖】
兼題-大高霧海・選
サイパンのバンザイ断崖クリフただ灼くる
愛媛 境 公二
崖下へと敗戦自殺沖縄忌
富山 藤島光一
断崖も絶壁もなき蝌蚪の国
大分 金澤諒和
兼題-岸本マチ子・選
崖を裂く浄蓮の滝風光る
埼玉 金子勝美
野焼の火磨崖仏へと今迫る
兵庫 内田あさ子
断崖の波に抱かれ海女の笛
兵庫 小田慶喜
兼題-高橋将夫・選
崖路きて古希のふぐりに春の風
宮崎 早川たから
断崖に立ちて思うや大石忌
福岡 益田凡夫
断崖の後退りせし春怒濤
青森 飯田知克
兼題-名和未知男・選
かなしめば天に崖あり楸邨忌/div>
愛媛 境 公二
崖下の小さき拝所海桐花咲く
愛知 安井千佳子
網走の懸崖を翔つ尾白鷲
福岡 洞庭かつら





2018年| 7月6月5月4月3月2月1月
2017年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2013年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2012年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2010年| 12月11月10月9月8月7月6月
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