●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2016年8月号 ○
特   集
終戦日特集「無言館を訪ねて」
館主インタビュー、無言館ギャラリー(戦没画学生絵画)、無言館吟行
特別作品50句
大牧広、高橋睦郎
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、「俳句の『読み』を読む」ー岸本尚毅、他
セレクション結社
「円虹」山田佳乃
俳句界NOW
佐怒賀直美「橘」
甘口でコンニチハ!
谷口真由美(大阪国際大学准教授)
特別作品21句
落合水尾、古賀しぐれ、雨宮抱星
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
大凧やあばれ天竜眼の下に
神奈川 萩野英利
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
しやぼん玉歩行者天国はみ出しぬ
千葉 原 瞳子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
蛇穴を出でて吟行日和かな
熊本 加藤いろは
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
車間距離とれば逃水割り込みぬ
岐阜 大井公夫
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、茨木和生、今瀬剛一、大串章、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
移民史の行間の黙花水木
福岡  西村 笙
花水木の原産地はアメリカである。戦前戦後、北アメリカや中・南アメリカへ、多くの日本人が移民した。戦前にアメリカへ移民した人々は、戦時中、大層苦労をしたのである。移民史の行間に書き表せない苦労があり、黙がある。それを花水木に結びつけたところが佳い。
壺焼のつの立ち真砂女の忌
茨城  國分貴博
壺焼と言えば栄螺の壺焼である。捕りたてのものをそのまま焼くこともあるし、貝の身をいったん取り出し、細く切ったものを殻に戻して焼くこともある。この句は、「卯浪」の女将であった鈴木真砂女さんの姿を彷彿とさせるところが佳い。
春潮に乗つて歌舞伎がやつて来る
東京  川瀬佳穂
伊豆大島とか八丈島とか、そのような島の光景である。春になると、春潮を越えて役者の一門がやって来て、歌舞伎を興行してくれる。それを待っていた島人たちは大喜びである。春になり、海もおだやかになった島の様子が佳く描かれている。
雑詠-稲畑廣太郎・選
箱庭に念願の句碑建立す
京都  北村峰月
歴史的な季題になりつつあるのかも知れないが、夏の風物詩として、今でも箱庭を趣味でしている方はおられるのではないだろうか。句碑は句碑でもミニチュアの句碑なのである。何か物語の世界を垣間見るような、文字通り夏の涼しげな景色が目の前に展開されて楽しく鑑賞出来る。
花散るや戦艦大和沈みし日
愛知  井村晏通
筆者は戦後生れでこの事実は歴史として知るだけであるが、大日本帝国海軍が誇る戦艦大和が沈んだのは昭和二十年四月七日である。年によっては多少違うが、この頃は確かに桜の花が散って行く季節でもあるだろう。何か戦争の悲惨さも伝わってきて季題が重々しく心に響いてくる。
揚羽蝶己が影より逃げ果せず
神奈川 大木雪香
夏蝶の代表とも言える揚羽蝶であるが、黒揚羽等大型の蝶が多く、明るい夏空を雄々しく飛んでいるような印象がある。色も黒っぽいものが多いだろう。そんな揚羽蝶を影をうまく捉えて表現しているところが圧巻。ダイナミックに羽ばたいている姿も想像出来、正に夏の姿である。
雑詠-茨木和生・選
残壕にひびく海鳴り沖縄忌
大阪  小畑晴子
沖縄にはそこで自決をしたり、火炎放射器の焔によって焼死した人のいた壕が多く残されている。沖縄忌は六月二十三日、沖縄住民の四分の一が犠牲になった沖縄県慰霊の日である。残壕に今もひびく海鳴りを、作者は霊を慰める音として聞いている。
せんせいもぼくもわたなべ一年生
神奈川 神野志季三江
入学式の前にクラスに入って、担任の先生が「私の名前はわたなべです」と話されたとき、この子は「僕と同じだ」と親しみを持ったに違いない。季語「一年生」の他はひらがなで書かれているのも喜びがよく伝わってくる。この一年生、誰よりも早く学校になじんだに違いない。
長靴も傘もうれしい一年生
京都  名村柚香
この句もかわいい一年生を詠んだ句である。男の子であっても女の子であってもよいが、こんなうれしさを素直にあらわすのは男の子の方だろう。入学式の日が「運よく」雨の日だったのである。長靴を履いて水たまりを跳んでやってくる景も見えてくる。
雑詠-今瀬剛一・選
家よりも大きく描きチューリップ
島根  東村まさみ
例えば幼稚園児ぐらいの子供の描いた絵を思ってみるといい。その頃の子供は自分が興味を示したものを大きく描く。ここでは庭に咲いているチューリップが一番強く心に響いたのだ。気がつくと家を描く場所がなかったので慌てて小さく付け足した。我々の感動の表現もかくありたい。
一つ灯に七人家族遠蛙
北海道 井上映子
一つの明かりの下、にぎやかに食事でもしているのであろうか。耳を澄ますと遠くからは蛙の鳴く声も聞こえてくる。非常に快い情景。七人という人数に心温まる思いがする。そしてそれは「一つ灯」に「家族」という絆で結ばれている。さらに「遠蛙」が情景的だ。言葉に隙がない。
四阿へ集まる木道花菖蒲
三重  佃 実
情景のよく見える作品。花が咲き満ちている菖蒲園の中を、幾筋かの木道が走っている。その情景描写も見事だが、それは「四阿」に集約されて情景の焦点が明確になった。当然のことながら四阿は菖蒲園の中心に位置する。そして、そこには多くの人もまた集まっていたかも知れない。
雑詠-大串章・選
遠山に雪残りたる虚子忌かな
茨城  國分貴博
虚子忌は四月八日、遠くの山にはまだ雪が残っている。この句は、言うまでもなく〈遠山に日の当りたる枯野かな〉を踏まえている。高濱虚子の代表作を踏まえることによって、この句は奥行を増し、読み応えのある句になった。座五「虚子忌かな」が一句の眼目である。
かげろふや青春の書肆そのままに
東京  川原瀞秋
学生のころ足繁く通った本屋を久しぶりに訪ねると、今も学生たちが何人も書棚を見て回っている。ここは今も昔も「青春の書肆」なのだ。私はこの句を読んで、学生の頃よく通った大学正門前の本屋「ナカニシヤ書店」を思い出した。懐かしいナカニシヤ書店、今も在るだろうか。
苗木市二巡りして決めにけり
大阪  西村千恵子
苗木市には梅・桃・躑躅などさまざまな木が並ぶ。一巡りしただけではどれを買ったらいいか分からない。自宅の庭の広さや既存の木の名を思い出しながら、もう一度苗木市を見てまわる。そしてこれぞという木を探し当てる。「二巡りして/決めにけり」がいかにも苗木市らしい。
雑詠-角川春樹・選
戦争の記憶蟬穴覗きこむ
埼玉  鈴木良二
蟬の幼虫が、地中での生活を終えて地上に這い出したときに開けた穴を「蟬の穴」と言い、覗けば深閑とした静かさと深まりがある。蟬声は大戦の記憶を呼び覚ますが、昨今の世相もあり、蟬穴は作者に何を語るのであろうか。
原色の人の列ゆく春の山
大阪  吉田 喬
春の山は、木々の芽吹きなど生命の復活が見られはじめる。掲句は登山服の色彩に注目したのであろうが、「原色の人」と暗喩を用いたことで句意に深まりが出た。文明社会を一時的に離れて山に入るひとの命を、自然の一部として眺めなおす視点が感じられる。
ポップコーン爆ぜてこぼれし夏始め
高知  田村乙女
一読してリズミカルな場面描写に、作者の心おどりする様子が出ている。ポップコーンは、子供たちのために作っているのであろう。こどもの日や黄金週間が連想され、初夏の喜びがよく描かれている。
雑詠-岸本マチ子・選
藁ひとつ咥へし燕地震の家
福岡  矢野二十四
せっかく帰って来た日本の空、「藁ひとつ咥へ」がとてもいい。地震で家が壊れてしまったのであろう。藁をひとつ咥えて呆然としている様が目に浮かぶ。だがこうしてはいられないと、燕は生まれて来る子の為にせっせと巣づくりをするのであろう。。
長閑さや餅屋の鼻の白き粉
徳島  蔵本芙美子
「長閑さ」がいかにもはまっている。家の近くにもお餅屋さんがあるが、いつも鼻の先に白い粉をつけている。いそがしいとも思えないのだが、いかにものどかな鼻の白い粉にひかれる。
蘇る瓦礫の街の鯉のぼり
千葉  杉野和正
ニュースで見たのだが、全壊した家の屋根に翩翻へんぽんとひるがえる鯉のぼり。赤ちゃんが生まれたのかもと思ったが、日本男子の魂を見たように思った。誠にあれは見事な鯉のぼりであった。
雑詠-古賀雪江・選
一斉に湖面を剥 がし鴨引けり
愛知  井村晏通
秋冬の頃、北方から来た渡り鳥が春になると群をなして北方に帰ってゆく。「引く」は「去る」と同じ意である。「湖面を剥がし」の措辞は、群をなして湖面に浮かんでいた鴨が一斉に発った様子であり、おびただしい鴨の数をも思わせる。鴨たちの去った後は光止まざる湖であった。
初蛍水の匂の中に待つ
山口  御江やよひ
水辺の闇に神秘的な光を明滅して飛ぶ蛍は、美しいばかりでなく神秘的な感じがして、その光りざまと命の儚さに人生的感懐や寂寥感を覚えることもある。盛期は六月中旬、野川の水の匂う頃である。闇の中で瀬音を聴きながら蛍の現れるのを待った。源氏蛍は大きく、平家蛍は小さい。
花筏解かれて帯となりにけり
東京  新井孝夫
花が散って水面に浮かび流れるのを筏に見立てたのが花筏であるが、その筏が岩や堰などによる流れの乱れで一本の帯のように流れ出した。桜の花の散り際の潔さは、昔の武士道の精神に例えられ、水に散ってもその美しさは続く。時には上流の花びらが加わっていることもある。
雑詠-坂口緑志・選
戦争は人類のことがまがへる
千葉  八川信也
地球上には、いまだ戦火が絶えない。民衆を犠牲にして、国家間の醜い争いが続いているのである。いつまでも、そんなことをしているのは人類だけだと言う。蟇をはじめとする人間以外の動物の世界では、生きてゆくのに必要な、自然の摂理に沿った最低限の争いがあるのみである。
スー・チー氏撓る強さや花明り
福岡  石井麗子
ミャンマーの政治指導者、ノーベル平和賞受賞者、アウン・サン・スー・チー女史。三度の自宅軟禁にも屈せず、この春政権を握った。大統領にはなれず、国家顧問、外務大臣として。作者は日本に居て、花明りの中、その不屈の精神を称えている。上五は字余りでも「の」を入れたい。
寂聴の愛は死ぬまで紫木蓮
静岡  内藤小夜子
瀬戸内寂聴さんは作家であり九十四歳の尼僧である。若いころは、夫と娘を捨てて出奔したり、不倫生活を経験している。その寂聴さんの言葉。人間は孤独だから、孤独が寂しいから愛を求める。人は死ぬまで愛を求める、と。木蓮の花の紫が納得させてくれるようである。
雑詠-佐藤麻績・選
風生の吐息のいろのさくらかな
千葉  露木伸作
富安風生は市川の弘法寺に〈まさをなる空よりしだれざくらかな〉の句を残した。作者はこの樹齢四百年を越すとも言われる見事なしだれ桜に対面し、さまざまな思いの中でしばしの時を過ごされたのであろう。そして風生の吐息と感得されたのである。
咲いて知る山の桜の無尽蔵
福島  阿部 弘
ずばり実感のある句である。桜季になると何処へ行っても桜に出会う。四方を見渡し、「なんと日本には桜の多いことよ」と思う。しかも、鬱蒼とした木々を見るだけだった山に見事桜が出現する。桜は無尽蔵とは確かな把握である。
鶯の待ち伏せに遇ふ切通し
大分  光成えみ
鶯は日を重ねると鳴き方も上手になって人に聴かせようとしているかと思う程得意げに鳴く。思わず誉めてしまう事がある。鎌倉の切通しで通り抜けようとした折に突如鶯が鳴いて驚いたことがあった。「待ち伏せ」されたとは同感である。類想的でないばかりか、まさに俳諧的である。
雑詠-鈴木しげを・選
門を出て花の過客となりにけり
神奈川 野地邦雄
「月日は百代の過客にして」は松尾芭蕉の『おくのほそ道』の書き出し。作者も自宅の門を出て過客すなわち旅人となるのである。この句は中七の「花の過客」がいい。単に花に浮かれて門を出るのではない。西行や芭蕉の人生に亘る旅ごころである。一句の垂直の調べがうつくしい。
百千鳥七八人の樹木
大分  近藤七代
樹木葬に立合ったことはまだないが、近年は霊園の広さにも限りがあって大樹の下に埋葬することは多いときく。むろん故人の遺志によるところであろうが、樹下の土に永遠の眠りにつくのもわるくない。「七八人」の表現に生前の生き方が伝わる。大樹に春禽の声があふれている。
夫癒えよ山ふところの山桜
愛知  井村妟通
ご主人の病気は軽からぬものなのだろう。妻の祈りの一句である。病棟の窓から見える冬景色の山ふところに春の息吹の山桜が咲いた。夫の病気が快方にむかいますよう。妻の一念が山桜に届くと信じたい。「山ふところの山桜」が、よい響きである。
雑詠-辻桃子・選
揚ひばり目覚めしごとく落ちにけり
茨城  加藤そ石
囀りながら野の上の空に高く舞い上がってゆく揚雲雀。頂点に昇りつめたかと思うと鳴き止んで、一直線に落ち野に隠れる。その瞬間を「目覚めしごとく」と捉えた。雲雀は夢見るように昇りゆき、空の一点で夢から覚めて落ちてゆく。メルヘンの世界を面影にしてリアリティのある句。
花冷えや開ければ匂ふ薬箱
神奈川  小原紀香
花冷えの日、風邪を引きかけたか頭痛がしたかして、薬を飲もうと常備の薬箱を開けたのである。ふっと何種類かの薬の匂いが混じった薬箱ならではの匂いがした。ただそれだけのことが詠まれた句だが、「開ければ匂ふ」とさりげなく「花冷え」と「薬箱」を結びつけた表現がよい。
散りしものまた寄り合ひて花筏
新潟  飯島俊子
水に散った桜の花びらが寄り合ってびっしりと水面を埋めている。落花の時期によく見かける美しい景だ。いったん寄り集まっても流れや風の働きで離れたり、くっついたりする。そうした動きはさまざまなことを連想させるが、まずは現実の花びらを客観写生した句として鑑賞したい。
雑詠-夏石番矢・選
張り切つて爆発するな葱坊主
埼玉  福田啓一
畑に生えている葱坊主への呼びかけであると同時に、年長者から人間の男の子へのやさしい忠告のような一句。張り切り過ぎて爆発しては、これからの輝かしい進路が滅茶苦茶になる。自制しながらも、意気込みや清新さを失わずに、まっすぐ育ってほしいとの願いが込められている。
かたつむり渦の真ん中には恥じらい
北海道 澤田吐詩男
簡単に詠めそうで詠めない俳句。作者は、蝸牛のあののろのろとした動きの本源が、殻の中核にある小さい羞恥心にあると捉えた。つまり、羞恥心がゼンマイのように巻き込まれた生物として蝸牛を捉えた。この作者には、独自性が空転に終わる傾向があるが、この句では見事に成功!
一億総鬱なり万愚節
千葉  金子未完
「いちおく・そううつなり・ばんぐせつ」の四・六・五音の独特のリズムの句。このリズムがとても効果的。四音の「一億」が強調され、「総」にアクセントが置かれ、うかれてなどいられない暗い昨今のエイプリルフールを皮肉たっぷりに詠んだ。断定のいさぎよさも感じられる。
雑詠-西池冬扇・選
呼び鈴を二度押す客や春の昼
石川  前 九疑
物憂い春昼の景。呼び鈴を二度押す癖のある友人が訪問してきたらしい。あるいは、こんな押し方をするのは誰であろう、と考えたのかも知れぬ。読者が意味あるイメージを創出するのを容易にする省略、これも俳句のレトリックだ。私はヒッチコックのサスペンス映画を想い出した。
ぐいと顎上ぐる入学写真かな
東京  矢作十志夫
入学写真を撮っている景と思う。桜の木の下で、ぐいと顎を上げた将来への希望に満ちた少年の顔がある。実に胸躍るモノがある。掲句では「ぐいと」というオノマトペが効果的に使われている。作者が被写体である少年に成り切ったような体で作られているのも読者に臨場感を与える。
花吹雪馬駆け出して一直線
兵庫  大曲富士夫
先日賀茂の競馬を観る機会があった。まさに眼前を一直線に馬が疾走する姿をみた。迫力満点である。この句は牧場の中を一直線に馬が駆け出している所とも、競馬場で直線コースに入った馬の姿ととれないこともないが、いずれにしても花吹雪の「取合せ」で華麗なる馬の姿がみえる。
雑詠-原 和子・選
封印のまだ新しき落し文
神奈川 加藤静江
オトシブミ科の甲虫が広葉樹、檜、櫟、栗の葉を丸めて産卵。幼虫の揺り籠ともいわれる木に吊るされたばかりの青々とした「落し文」は実に精巧なもので、上五「封印」にも納得がいく。例句にも文にかけた秀句があり目を惹く。〈音たてて落ちてみどりや落し文 原石鼎〉など。
ものの芽や水の地球の水匂ふ
三重  岡田良子
「ものの芽」は春先の草木の芽吹きの総称で、その模糊とした気配がこの季語の本領。季節の先駆の息遣いが伝わる。もとより地球儀に示されているように「水の地球」は動かし難い。「ものの芽」を促す生きることに関わる水の大切さ、大きな景の中にいい留められたやさしさを評価。
適塾の空をたがはず初燕
愛媛  境 公二
江戸末期の蘭医、適々斎と号した緒方洪庵の開いた適塾は今も大阪市中にあるが、時代をリードした多くの秀才がここで学んだ。一歩足を踏み入れただけで、この塾に津々浦々から集まってきた若者の活気が伝わる。この句の見所は説明を越えて市中に一閃を放つ初燕の清々しさにある。
雑詠-山田佳乃・選
羽根一つ空に残して鳥の恋
大阪  石川友之
繁殖期を迎えた鳥たちは盛んに求愛行動をとる。時に激しい独占欲も見せて可愛らしい鳥にも子孫をのこす厳しさがある。鳥の姿が消えたあと、一つの羽根がふわりと風に吹かれて、鳥の恋の残像のように感じられる。空に漂う羽根一枚に焦点を絞ったことで様々な想像が広がっていく。
そよ風をおまけに付けし風船屋
佐賀  萩原豊彦
色とりどりの風船を並べ遊園地などで風船売りが子供たちを集めている。子供たちにとって風船を買ってもらえる日は特別なお出かけの日。そっと手渡されるとき、そよ風が付いてきたように感じた作者。「おまけに付けし」という措辞が風船売りの愛想のよさも想像させて楽しい一句。
一番茶摘む目配りの抜かりなし
高知  高橋宣彦
四月の下旬ごろに摘まれるものが一番茶で、もっとも良質と言われる。この頃は霜や寒さも残 る時期で茶園では気を抜けない。様々な細やかな作業に張り詰めた緊張感も感じられる。実際茶 摘みを身近に体験している方でないと、なかなか詠めない実感のこもった句である。
兼題
選者:大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)
今月の兼題…【水】
兼題-大高霧海・選
敗戦忌水木しげるの左腕
埼玉 竹田圭子
水水と乞う声耳に原爆忌
岡山 光岡さなえ
一滴の水の重さや春の地震
熊本 石橋みどり
兼題-高橋将夫・選
食む音の水音となる春蚕かな
東京 高橋透水
万緑や命あるものみんな水
三重 岡田良子
水恐し熱砂とたはむる子ら愛し
神奈川 宮原光彦
兼題-田島和生・選
雪解水三連水車廻しけり
千葉 上田久美子
水替へて金魚俄かに艶かし
沖縄 中島 健
行く春や水底の砂みなをどる
神奈川 山口せうこ
兼題-田中陽・選
いくさなき国の水音蛍飛ぶ
佐賀 大石ひろ女
生き者の殺し合ふ星水温む
神奈川 堀尾 巌
空海の山の灯仰ぎ水盗む
栃木 島 杜桃
兼題-中西夕紀・選
水温む雲の如くに稚魚流れ
福岡 白川砂太
糸柳水面に仮名を書くやうに
愛媛 渡部洋三
雪解水月山胎臓くぐり来し
山形 鈴木禧實
兼題-名和未知男・選
梅花藻にこの世の水の透きとほる
大阪 熊川暁子
糸瓜水子規は百年前の人
大分 松鷹久古
田水張りて星の零るる散居村
埼玉 吉澤純枝
兼題-能村研三・選
水打つてかすかな浮力もらひけり
埼玉 鈴木良二
逃げ水やアウトバーンをまつしぐら
兵庫 大曲富士夫
水音もメニューの一つ夏料理
千葉 塩野谷慎吾





2016年| 7月6月5月4月3月2月| 1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
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