●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2018年10月号 ○
特   集
私の作句信条
深見けん二 高野ムツオ 夏石番矢 坪内稔典 池田澄子 ほか
特   集
「世田谷区一家殺人事件」遺族
入江 杏 インタビュー
〜悲しみからつながっていける社会へ
俳句界NOW
奥名春江
セレクション結社
「句友」𠮷川禮子
私の一冊
古賀雪江『一身』
俳人訪問
石井いさお
特別作品50句
高橋悦男
甘口でコンニチハ!
吉行和子、冨士眞奈美(女優)
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
折井紀衣、長嶺千晶(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、山尾玉藻(敬称略)
兼題選者
大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
放射能の火傷痕ある馬冷す
高知 川添弘幸
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
毎日が加速してをり濃紫陽花
千葉 夏目当代
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
空港を出るやたちまち盆の風
東京 向瀬美音
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
沖縄の還る日パイナップル固し
奈良 中川草汀
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂 未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、山尾玉藻(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
夜光虫とび散る錨投げにけり
大阪 小畑晴子
暗い波間に青白い光を出して漂っている夜光虫は、蛍とはまた違った神秘的な感じがある。 港に船が着き、錨を投げ入れた瞬間、夜光虫が発光しつつ四方に飛び散ったのである。 波の上だけでなく、波しぶきとともに高く飛び散った夜光虫の美しさを描いたところが佳い。
喫茶去と誘ふ栄西新茶の香
神奈川 金澤一水
臨済宗の祖・栄西は宋に二度渡り、帰国の際、茶種を持って来て栽培し、日本に茶も広めた。 そして『喫茶養生記』を書き、茶を飲むことを勧めた。 「喫茶去」きっさこは禅で人を叱咤する言葉だったが、「お茶でもお飲み」という誘いの言葉になった。 新茶の香から栄西を思い出したのが佳い。
今もゴドーを待つてをり泉の二人
兵庫 松林孝夫
『ゴドーを待ちながら』とは、一九五二年にフランスのサミュエル・ベケットが発表した戯曲である。 泉のそばに長く休憩している二人を見て、ああ、あの二人はまだゴドーを待っているのだと想像したところにロマンがある。
雑詠-稲畑廣太郎・選
恋いくつ育てしベンチ風薫る
北海道 髙畠テル子
普通に公園の水辺などにあるベンチであろう。 古くから設えられており、数多のカップルがこのベンチに座って恋を語り合った。 ベンチ自体が恋を取り持つキューピットの役割を果たしているようで、何ともこの擬人法は微笑ましい。 そして何よりも季題が雄弁に語っている。
思ひ出の夜毎に母の吊りし蚊帳
兵庫 大谷千秋
現在では蚊帳を吊っている家庭はほぼ皆無なのではないだろうか。 筆者は子供の頃、日本間に蚊帳を吊って寝ていた記憶があり、今でも生家には蚊帳吊用のフックがあるが、 吊るのは確かに母親の役目であった。蚊帳は重量があり、母も重労働で、子に対する愛情を感じる。
母の背は凩さへも子守唄
神奈川 菅原若水
寒い冬に、母親が子供を背負って外を歩いている姿を想像するが、この句からも何かレトロな雰囲気を感じる。 昔ながらのねんねこも想像出来る句であるが、そんな中、凩が吹き付けていても、 母の背中は、その母自体の温もりも相俟ってぬくぬくと感じられる。愛情豊かに詠まれた。
雑詠-今瀬剛一・選
走り根を洗ひ出したる男梅雨
東京 佐藤多美子
足もとにくっきりとした「走り根」がある。 走り根があるからには大樹。大樹であれば当然の ことながら枝葉は茂っていた筈だ。 その枝葉を突き破る様にして降る雨を「男梅雨」とはよく言った。 「洗ひ出したる」という表現が見事に響いてよく情景を見せている。全体的に隙の無い作品。
紫陽花の毬はづませて雨滂沱
愛知 鳥取博子
この作品もまた激しい雨の降り方をよく表現している。 咲き満ちている紫陽花を激しく雨が叩いている。 その雨による紫陽花の動きを「はづませて」と雨を主体に表現しているところがいい。 この表現により雨の激しさとともに鮮やかに咲く紫陽花そのものがくっきりと見える様になった。
新じやがのひかり土より掘りいだ
神奈川 金子 恒
大切に栽培したじゃが芋、それも「新じやが」であれば「ひかり」という心のこもった表現は分かる。 一つ一つが輝いて見えるのである。そしてそれが「土より」によってさらに輝きを増した。 土もまた大切なのである。土より掘りだした新じゃがの「ひかり」、それがこの作品の命だ。
雑詠-大串章・選
白旗の少女の記憶沖縄忌
東京 尾形和北
沖縄忌がくると白旗を掲げた少女の写真を思い出す。 裸足でおかっぱ頭の哀れな姿。 沖縄戦の末期、昭和二十年六月二十五日にアメリカ軍のカメラマンが撮った写真である。 沖縄戦では住民十数万人が死亡したというが、白旗を掲げて米軍に歩み寄り、一命をとりとめた少女もいたのだ。
八月や故郷今も旧満州
大分 下司正昭
自分にとって「故郷」は「今も旧満州」である。 はっきり言い切ったところに望郷の念が窺われる。 作者は幼年期を旧満州(現・中国東北部)で過ごされた。実は私も旧満州で幼年期を過ごし、 終戦の翌年、父の故郷佐賀県に引き揚げて来た。下司さんはいつ大分県に戻られたのか。
母の日のワインは赤ときめてをり
愛媛 松浦由美
ワインの色は白、赤、ロゼなどさまざま、人によって好みも異なる。 しかし、母の日には赤ワインを飲むと決めている。なぜか。 母の日に亡母には白のカーネーション、健在の母には赤のカーネーションを贈る慣わしがあるからだ。 母の日とワインの色の取合せが面白い。
雑詠-大牧広・選
植ゑし田の靡くを柩回し見す
愛媛 境 公二
痛切な一句。人生の最終章として、柩の中の人のために植田を一回りした。 故人はきっと、土起こしから植田までをがんばったのであろう。 その植田を故人にしっかりと見て貰おうと一回りした霊柩車。ひとつの行動であるけれど胸を打つ。
駅を出て知人のやうに仰ぐ虹
埼玉 諏訪一郎
「知人のやうに」が巧み。虹はしばしば出るものではないが、空に現れると、何ともいえない「親しさ」を感じる。 懐かしさといってもよい。ゆえに、この表現は絶妙といえる。
雨戸みな閉ざせし家に帰省かな
東京 竹内柳影
今どきの帰省の様子が、しっかりと詠まれている。昔のように賑やかな家族は、もうほとんど居ない。 かたくなに雨戸が閉められている。空洞化の目立つこの国。考えさせられる一句といえよう。
雑詠-櫂 未知子・選
海抜の書かれしポスト更衣
鳥取 石渕さゆり
「更衣」ほど誤解されている季語も珍しい。 この季語は、衣服のあれこれを言うのではなく、 更衣にともなう別の出来事を取り合わせるべきである。 この句はそういった読者の要求にじゅうぶん応えてくれた。
新じやがのひかり土より掘りいだ
神奈川 金子 恒
まだ水分が多く、淡白な味わいの「新じゃが」。 旬の秋の馬鈴薯とは異なる詠み方が必要とな ってくる。 この作品の品の良さ、そして、季語だけに集中したいさぎよさからは、見習うべきものが多いと思われる。
約束は約束のまま星祭
東京 曽根新五郎
「星祭」、すなわち七夕は、願いの質や多さに言及される句が多い。 しかし、この作品は果たされなかった「約束」のみを詠んだ。 どこかしら青春性があり、永遠に実らぬであろう初恋の雰囲気がある。
雑詠-角川春樹・選
短夜をきらきらさせて喋りあう
静岡 北邑あぶみ
夏至にかけて夜が最も短くなり、まだ眠りたらぬうちに空が白むのは、やるせないわびしさを誘う。 掲句では、そのような短夜を踏まえつつ、「きらきらさせて喋りあう」という新鮮な措辞で景を転換させている。 林間学校や合宿などを過ごす学生の様子を想起した。
もう親を批判して居り半ズボン
埼玉 中島みつ子
作中の登場人物としては、小学生、あるいは幼稚園児などを思い浮かべた。 反抗期か、やや背伸びをした子どもなのだろう。 季語「半ズボン」の取合せにより、あかるく、ユーモアのある作品となった。
麦秋や古きシネマに雨走る
静岡 宮田久常
麦秋と「古きシネマ」の取合せの妙だけでなく、「雨走る」と着地させたところがいい。 名画座のスクリーンなどで見られる、フィルムのノイズをこのように表現したのだろう。 また、作者の郷愁の心象風景をかいま見せてくれる。
雑詠-古賀雪江・選
通夜の座の底を這ひをる蚊遣香
岐阜 大井公夫
地方では今でも自宅で通夜葬儀を行う事も多いと思う。 沈痛な人々の間を蚊遣りの香が静かに流れ、哀しみが深く漂うようである。 夜も更けて来て蚊遣り火の渦も半分になった。 最近では電熱を利用してのものもあるが、蚊遣り香の渦から煙の這う様は日本の夏の懐かしい景である。
海霧深しエンジン音を見送れり
北海道 日下久翁
海霧は、太平洋上の風に乗った暖かく湿った空気が親潮寒流で下から冷やされて生ずる濃霧である。 そんな中を出港する船笛には物悲しさを誘われるようだ。 濃い霧の中を出て行く船の姿は見えないが、あのあたりかとエンジンの音を目で追う。
足湯して日永の電車やり過ごす
愛媛 稲井夏炉
春分から少しずつ日が伸び始める。 日中ゆとりも出来、心持も伸びやかになる。春は、冬の短日の後なので日が長くなったという心持が強いのである。 旅先での足湯の心地よさに、まだまだ日も高いし、一電車遅らせても良かろうと思ったのであろう。
雑詠-佐藤麻績・選
マネキンの海みるやうなサングラス
東京 曽根新五郎
マネキンは等身大の人形で、一見して客の購買欲に訴える工夫を凝らしている。 この句では夏をアピールしているらしいが、作者の感受性は見事に、そのマネキンが海を見ているようだとまで受け取っている。 それは商品のサングラスを売らんとする効果が絶大だったことの証であろう。
鵜の墓も鵜匠の墓に添はせけり
愛媛 境 公二
鵜飼をする鵜匠と鵜の心が通じ合っていることは当然であろう。 どれ程の年月を共に過ごすのかはわからぬが、やがてどちらも世を去ってゆく。 鵜匠の隣りに添わせて鵜も弔うのだという。 人の心のあり様を見ている作者なのだろう。
五月雨大工一気に木を削る
愛知 今田一歩
風薫る五月である。人の心も晴れやかに勢いがつく。 仕事として木を切り削ることは常のことであるはずだが、人間の気分は一定ではない。 抜けるような晴天に励まされて鉋を使うとなれば、具合よく一気になされるのであろう。 それを目にした作者も単純明快に伝わる秀句となった。
雑詠-鈴木しげを・選
橋越えてよりほうたるの二つ三つ
福岡 菅野奈都子
夏の夕べ、蛍狩を楽しむ習慣は古来からある。 近年では農薬のせいか蛍の生息できる自然環境が少なくなっている。 蛍を守るために野川や田水の手入れに力を注ぐ人々のおかげで、掲句のような情緒ある景が保たれているのである。 「橋越えてより」が周りの情景を伝えている。巧い作。
靴箱はいろはにほへと鱧料理
大阪 阿久根良一
鱧料理の老舗であろう。「鱧」は関西では代表的な夏料理の魚である。 客を迎え入れる店の靴箱が「あいうえお」ではなく「いろはにほへと」の順に表示されているという。 なんともはんなり感のある情趣。「いろはにほへと鱧料理」と、リズムにのせた読みぶりがいい。
夜光虫とび散る錨投げにけり
大阪 小畑晴子
夜光虫は増殖すると赤潮を形成して魚介に被害を及ぼすという。 あまり歓迎されない微生物ではあるが、海面に刺激を与えると瞬時に青の光体がひろがってうつくしい。 掲句は闇につつまれた海面に船の錨が投じられた一瞬を捉えた作。「とび散る錨投げにけり」の交響が見事である。
雑詠-田島和生・選
泰西の名画を照らし夜店の灯
兵庫 河内きよし
祭りに並ぶ夜店の中に、「泰西の名画」、つまりルノワールやマネ、モネ、マチス、ゴッホらの西洋名画が売られ、裸灯に照らされている。 もちろんコピーだが、名画が金魚やお面と並んでい るところが何ともおかしい。 「泰西」という古めかしい言葉を使い、現代風景を鮮やかに描いた。
甲虫樹液におぼれゐたるかな
東京 大坪 守
甲虫類はカブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシなど種類が多いが、掲句は、二本の角を掲げ、精悍なカブトムシである。 クヌギやカシの木などから溢れる樹液を懸命に吸う姿を「おぼれゐたる」と捉えて詠んだところが秀逸で、 「かな」には感動の思いがこもっている。
薔薇の雨夫の残せる鍵の束
兵庫 𠮷田光代
「残せる」は、「遺せる」の意味で、夫は他界しているのかも知れない。 夫は家のドアから金庫、 車など大切な鍵の束をそっくり残している。 庭の薔薇に降る雨を聞きながら、鍵束を手に夫とのことをいろいろ思い出す。 傍にいない夫に鍵束、薔薇の雨を併せ、痛切な哀感を詠み上げる。
雑詠-辻 桃子・選
扇風機去年のつづきから回る
兵庫 井上徳一郎
納戸から扇風機を取り出してスイッチを入れると、羽が回り始める。 それは去年、最後にスイッチを切って羽が止まったところから回り出すのだ。 言われてみればその通りだが、真実をついている。 扇風機のみにとどまらず、人間のあらゆる営みにも通じる。軽い発見だが、愉快な句だ。
ハイデガーを師と言ふ漢ビール焼け
埼玉 佐藤貴白草
ハイデガーはドイツの実存哲学者。第二次世界大戦後、サルトルなどとともに、実存主義の哲学や文学は、我が国の若者にもよく読まれた。 この「漢」も若い頃から心酔し、師として私淑してきたのだ。 「ビール焼け」の赤ら顔に、いかにも硬骨漢といったこの人物の風貌が彷彿とする。
父の日やライカの蛇腹そつと拭く
福岡 山際はるか
父の日に、父の遺愛のライカのカメラを取り出して、その蛇腹をそっと拭いた。 父は本格的に カメラに入れ込んでいて、休日も留守にすることが多かった。 父の日といっても特別なことはし なかった。亡くなった今では、そんなことも思い出される。「そつと」に父への思いが表れている。
雑詠-夏石番矢・選
ぼくは蛇どこへ向かふか知つてゐる
福島 斎藤秀雄
平易でなめらかな日本語で書かれ、しかも謎深い秀句。 この謎かけをどう受け止めるか。蛇に変身した作者。蛇になりきって、その本能を肯定し、その行動をためらいなく実行する。 人間であることと蛇であることの根深い乖離。この存在者間の乖離に気づく人は、貴重で希少だ。
甘い君を食べて空ばかり見ている人生
福島 呼吸
謎深い無季俳句で、六・八・八音。「甘い君」とは何か? こういう解釈をしてみた。 日々再生産される糖分の多い菓子ばかり食べ、働きもせず、呆然と大空を眺めているだけの空虚な人生。 軟禁状態か。こういう境涯へなぜ追い込まれたか、何もわからない。不条理劇を連想させる俳句。
ポピー揺れ揺れて時間がずれてゆく
神奈川 矢橋航介
一面に群れ咲く雛罌粟。その鮮烈な赤い花々は、つねに揺れている。 微風にも、突風にも揺れる。揺れは、空間にひずみを生む。 しかし作者は目に見えない時間にずれを発見する。 時間のずれは、日常生活にも生じているが、まず気づけない。ポピーの花々が、真実を気づかせてくれた。
雑詠-行方克巳・選
雨戸みな閉ざせし家に帰省かな
東京 竹内柳影
雨戸が皆閉まっているという事は、今まで住んでいた人がいなくなった(自分ではなくて)ということ。 すると自分を喜んで迎えてくれる人も居ないということになります。 故郷に帰る事は嬉しいに違いないのですが、きっと家族に色々なことがあったのでしょう。
母の日やチラシの裏の母の文字
福岡 永田寿美香
母の日のテーブルの上に、たまたま置かれてあるチラシを裏返してみるとお母さんの書いた文字が目に触れた。 日頃メモ替りにチラシの裏を使うようなつましい母だから珍しくはないのだけれど、 なぜか切ない気持になったのである。近頃作者が勧めた俳句などが書いてあったかも――。
仰向けになりて水馬交みけり
広島 谷口一好
水馬は流れの上にぴたりと静止したり、水溜りや池などに浮いて、 素早く獲物を捕食するなかなかのハンター。 オスが相手を見付けて交尾するときも目にも止まらぬ早業で動きます。 作者はその生態をよく把握しています。同じ「水澄みずすまし」の名を持つ、「まいまい」は種類が異なります。
雑詠-西池冬扇・選
包丁の研がれし匂ひ走り梅雨
神奈川 秋山れい
刃物を研ぐと独特の匂いがする。 日本刀の表面の模様ににえとかにおいというものがあるが、この句ではたぶん臭覚で感じる匂いだろう。 下五の「走り梅雨」は研いでいた時期・季節を表出しているのではない。 「走り梅雨」を配すると、この包丁がとても切れそうな感じがするから不思議だ。
六月の少し分厚き時刻表
栃木 藤本一城
必要最小限の言葉でモノを表現することで、かえって趣が深く広がることを狙ったのが俳句だとすれば、この句はまさに俳句。 時刻表は鉄道のそれと考えたい。JR時刻表を買う人は少なくなったと思うが、未だに根強いファンがいるに違いない。 夏は臨時列車が多いのだろう、きっと。
大葉子の踏まれてばかり百葉箱
兵庫 萩原善恵
学校の百葉箱はもともと気候の学習用具として設置されたらしい。 このごろ東京ではヒートアイランド観測用にデータロガー付のものが設置されているようだ。 この句では誰かがデータを集めに行くらしい。設置場所は芝生か自然の地面。そこで大葉子は毎日踏まれる。面白い視点。
雑詠-能村研三・選
青嵐九回裏二死満塁
兵庫 摂津鶏侍
野球観戦においては最高の見せ場。 攻める側にとっては一打が出れば珠玉の一点が入り勝利を導く。 守る側にとっては何とか三塁の走者にホームを踏まさぬようにしっかり守らなければならない。 どちらにとっても、息が抜けない瞬間だが、果たして青嵐はどちらに味方してくれるのか。
丁寧に光織り込む蜘蛛の糸
熊本 石橋みどり
蜘蛛の糸といえば細くて頼りないようにも見えるが、透明の細い糸で作られた幾何学的な模様の美しさは見事である。 一すじの蜘蛛の糸は太陽の光を織り込むように丁寧に作られ、 しろがねの強靱な糸で織り込まれた蜘蛛の囲はしなやかに風に波打ちながらも決して破れることはない。
サーファーの膝しなやかに波を読む
鹿児島 内藤美づ枝
朝曇りの海岸には風待ちのサーファーたちが群れを作っている。 上手に波を乗り切るにはサーファーは、膝の使い方に気を付けなくてはいけない。 後ろ足の膝を前足の後ろ側に入れ込むのが上手くいく方法のようだ。こうした水上のスポーツも体で覚え込むことが大事だ。
雑詠-山尾玉藻・選
うねりては藻の吐き出せる緋の目高
愛知 山口 桃
流れが急なのか、水面に風が強く吹きつけているのでしょう。 「藻」が大きくうねる度、藻の影に身を潜める「緋目高」の姿が露わとなり、藻の緑色と目高の緋色がとても鮮明です。 そんな景を印象付ける「藻の吐き出せる」の擬人法が大変効果的です。
窓ガラス割れ十薬の花ひしと
岡山 生田恵祐
「十薬の花」の近くで「ガラス」が割れ、耳をつんざくような音が響き渡ったのでしょう。 その瞬間、作者には真っ白な十薬の花の咲きぶりが緩むどころか、一層凜と引き締まったように感じられたのです。 「ひしと」の三文字が活きています。
ポピー揺れ揺れて時間がずれてゆく
神奈川 矢橋航介
「ポピー」の花がとりとめもなく風に揺れ続ける景を見つめていると、 白日夢を見ているよう な気分となるものです。 殊に掲句の「揺れ揺れて」のリフレインは読み手を催眠術にかけるような効果があり、 「時間がずれてゆく」の世界に思わず引き込まれます。
兼題
選者:大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)
今月の兼題…【砂】
兼題-大高霧海・選
広島忌より永遠の砂時計
東京 井坂宏
砂糖水欲り特攻の少年兵
大阪 西田唯士
「リュウグー」の砂に夢描く星祭
神奈川 渡辺正剛
兼題-岸本マチ子・選
ザビエル忌朱欒の皮の砂糖菓子
千葉 萱嶋定火虎
砂を嚙む八月六日九日と
山口 田中賢治
鳴き砂を鳴かせて歩く白日傘
宮城 髙宮義治
兼題-高橋将夫・選
貝砂を吐き腐草蛍となりし夜
大阪 有松洋子
列島を吹き溜りにし黄砂降る
秋田 佐藤幸子
蟻地獄砂の女と沈みけり
大阪 江島照美
兼題-名和未知男・選
霾や砂塵に消えし帝国くにいくつ
埼玉 橋本遊行
天平の甍に烟る黄砂かな
神奈川 盛田墾
ほしのごとはまひるがほは砂のうへ
大阪 藤田康子





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