-俳句界 2014年 04月号-


●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,000円



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俳句ボクシング・今月のチャンピオン
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【赤コーナー】
寒風に根生の花女子駅伝
静岡 阿久津明子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン【青コーナー】
好きな本だけの書棚の淑気かな
東京 朴 京子
雑詠
雑詠-有馬朗人・選
大鷹にぐいと傾く山河かな
栃木  中村國司
大鷹が空高く舞っている。一角に高い山が聳え、一方には広々とした平野が広がっている。鷹が向きを変えようと翼を斜めに構えた。その時大きく山河が傾いたのである。作者自らが鷹になり飛んでいるような視点で描いたところが佳い。傾いたのは鷹ではなく、山河と見た所が面白い。
修羅を舞ふ面打つてをり冷まじき
大阪  小畑晴子
あらそいに満ち満ちているこの世、そして死後も修羅道に落ちて苦しむ。その修羅の世の姿を能で演じる時に用いる面を打っている。面打ちの鬼のごとき気迫の凄まじさ、それを「冷まじき」と季節の厳しさに転じたところが佳い。修羅を舞う面そのものが冷まじく感じられるのである。
旅の地図ミラボー橋にみかん置く
埼玉  本多和子
ミラボー橋はパリのセーヌ河にかかる橋の一つ。フランス革命時の政治家オノーレ・ミラボーが由来。この橋が有名になったのは、ギョーム・アポリネールの詩、「ミラボー橋の下をセーヌ河が流れわれ等の恋が流れる」による。その橋の上に地図と蜜柑を置いた所に旅愁を感じる。
雑詠-池田澄子・選
懐かしき眼を持ちなつかざる兎
愛知  桑原規之
「眼を持ち」の「持ち」が少し饒舌で惜しいが、複雑な心理を描こうとなさっている。可愛がったことのある莵が今近くに居る。作者にとって懐かしい莵、即ち莵の眼。しかし莵にとって人である作者は単なる他者にすぎない。これは世の習い、象徴的な淋しさの根源でもありそうだ。
猟夫の名つけし猪吊るさるる
兵庫  本村幸子
こういう場面に立ち会ったことはない。が、この一句によって、映像として見える。生き物同士として向き合って、命を賭け合って、勝って仕留めた生き物。それは商品となり売主の名が明記してあるのかも。シビアな景が描かれた。
人形に薬飲ます子竜の玉
大阪  隠岐灌木
「竜の玉」が近くにある処。人形遊びか、ひょっとしたら竜の玉も皿に入れて、ままごと遊びをしているか。その子は、人形に薬を飲ませる真似をしていた。自分が病気をした後だったか、身辺に病人が居たか。作者は原因に思い当たり、不憫に思ったのかもしれない。句の背景が広い。
雑詠-伊藤通明・選
鮟鱇の肝を晒して売られけり
神奈川 長浜よしこ
肝が肥大化する十一月から二月までが鮟鱇の一番美味しい時期。鮟鱇を食べたいと思う時、それは肝であり皮である。売る方は鮟鱇が持っている最大の魅力の肝を取り出し笊に盛って見せる。買う方も間違いのない現物の肝を見て買う。その状態は「晒して」と云う言葉以外見あたらない。
恙無き位置にまた貼る火伏せ札
大阪  阿久根良一
年の暮、今年も一年何事もなくすんだお札に感謝の気持をこめて、丁寧に剥がす。その後に新しい火伏札を貼る。来る年もまた無事に過ごすことが出来るようにと。十年も二十年もの繰り返しの祈りの無事がまた0 0 と表現されたのであろう。「恙無き位置」と表現されたことに感服する。
真つ新な鉈をかざして成木責
京都  上里友二
成木責は正月十五日の古くからの木呪の行事。「実付きが悪けりゃ剪るぞ!」「花が咲かねば剪るぞ!」と威す。この句は歌舞伎の舞台の上での所作のようで、真っ新な鉈に行事の伝統を感じた。いろんなものが廃れていく中で成木責がまだ行われていると云う事は嬉しい限り。
雑詠-茨木和生・選
うちぬきの水はやはらか葱洗ふ
愛媛  堀本芳子
出荷用の葱を畑に設えた農小屋の中にある掘り抜き井戸の水を使って洗っている。冬に入ってからの作業だが、「うちぬきの水はやはらか」でほっとするような温さもある。傍らでその葱を束ねていく作業をしている人の姿も見えてくる。葱の緑色が見え葱の匂いもつんとして来る。
この冬の雪を掻くこと生きること
青森  福士信平
雪国に住んでいると、冬を迎えるためには特別な思いを抱かねばならないと思う。いい加減な形で冬を迎えているようでは自然はしっぺ返しをしてくる。雪を掻くことへの備えとして体を鍛えておかねばならない。なによりもこの冬を生き抜くという強い精神力も必要だ。
珍品のごと卓袱台の吸入器
京都  浦野とし子
吸入器を見ることがなくなって久しいが、京都の旧家では今も家庭用の医療機器だった吸入器を使って、のどの痛みを和らげている老婦人がおられるのかもしれない。吸入器は冬の季語。卓袱台だって珍しいものになっている。「珍品のごと」という比喩は言わずにはおれなかった。
雑詠-大串章・選
難民の子ら思ひつつ聖菓買ふ
北海道 佐藤尚輔
今日はクリスマス・イヴ、聖菓を買う。そして、難民の子らのことを思う。大きな眼を見開き、痩せ細った子ども達。聖菓はもちろん、日々の食事さえ十分にとれない子ども達。栄養失調や感染症で亡くなる子ども達が、毎年三五〇万人から五〇〇万人いるという現実を忘れてはならない。
イマジンを聴く白髪のちゃんちゃんこ
埼玉  南 卓志
「イマジン」は一九七一年に発表されたジョン・レノンの名曲。世界中で歌われ一世を風靡した。ジョン・レノンはオノ・ヨーコ(旧名・小野洋子)と結婚し、日本には何回も来ている。その「イマジン」を、ちゃんちゃんこを着た老人が聴いている。時代の流れを感じさせる句である。
柚子風呂に浸かるやさしくなれるまで
茨城  内野道子
あたたかい柚子風呂に浸かると疲れがほぐれ、心が和んでくる。昼間の辛いことや嫌なことも、だんだん遠退いていく感じがする。こんな経験は誰にもあるだろう。「柚子風呂に浸かる」と言って出て、「やさしくなれるまで」と言ったところに共感する。
雑詠-角川春樹・選
雪吊りの縄一斉に匂ひけり
山形  森谷一芳
冬季には、庭木や果樹の枝が積雪で折れないように、傘のように細縄が張りめぐらしてある。「一斉に匂ひけり」という歯切れのいい措辞からは、その情景のおもむき、庭木の松のよろしさ、冬の深い青空が伝わってくる。
大根引くどの穴からも父の声
山口  丹後日出雄
「大根引く」という季語のもつ風土への連想力が、よく引き出されている作品。「どの穴からも父の声」という措辞には、諧謔味のみならず、在りし日に農に従事した父への慈しみ、父祖の地への挨拶の思いが込められている。
ポトフ煮る蓋ことことと寒波来る
埼玉  金子慶子
シチューやポトフは、現代ではすっかり冬の定番料理となっている。その現代性と、「寒波来る」という季語の取り合わせに、詩情が生まれた。ことに食物は人の記憶を刺激するが、掲句は読者に幸福感を想起させる。
雑詠-辻桃子・選
煮魚の汁のとろみや雪催
神奈川 大木雪香
家の煮魚でも悪くないが、築地などの魚河岸料理を思い浮かべてもよい。こってりと煮込んだ煮魚をつついていると、ふと雪の兆しを感じたのである。外を見れば暗い雲が垂れ込め今にも雪が降りそうだ。煮魚を味わいつつ、その煮汁の「とろみ」に感じた雪催。詩情が深い。
大鷹にぐいと傾く山河かな
栃木  中村國司
高空を旋回する大鷹を見つめているうちに、作者の目は大鷹の目と区別がつかなくなったのだろう。「ぐいと傾く」とは旋回したときに大鷹の目がとらえた山河だ。大鷹が傾いた分、下界の山河が傾き、山河の傾きによって旋回を確認する。大鷹の目線によって、躍動感を得た。
漱石忌分に過ぎたる猫の髭
福井  木津和典
夏目漱石の忌日は十二月九日。漱石といえば『吾輩は猫である』を思い出すが、主人公の猫は主人や主人のもとに集まる客や俳人を皮肉を込めて観察した。この句の猫は作者の飼い猫だろう。いたって平凡な猫だが髭だけは漱石の猫と同じほど「分に過ぎ」ているのだ。そこに俳味がある。
雑詠-豊田都峰・選
湿布貼るときも一人や虎落笛
兵庫  石原糸遊
「湿布貼る」とは大体人手を借りるものである。もし一人なら背中などは大変な苦労である。しかし貼らなければ体が悲鳴を上げる。そんなこんなの象徴が「虎落笛」であろう。季語としての組み合わせとしてもよいのではないか。
冬の蝿灯せば飛んで見せにけり
岐阜  大井公夫
まず「冬の蝿」と設定して、読者にその姿を提供する。読者は自分の体験などによりそれなりに理解する。そこへ作者が一つの観察を提供する。それが十二文字である。冬の蝿の一つの命を大変具体的な状態に把握している。それを評価する。
大根引く怡土の王都に住み継ぎて
福岡  洞庭かつら
「怡土(いと)」は弥生時代の北九州、今の福岡県西方の半島にあった小国。伊都国とも書き、糸島郡ともある。『魏志倭人伝』、邪馬台国などの時代の古さである。そんな土地に「住み継ぎて」「大根引く」とはなかなかのたつき振りである。
雑詠-宮坂静生・選
裸木のごとく身を処し生きたしや
神奈川 太田明次
清冽な生き方を心に念じている作者。虚飾を排して、自分が真実と考えるものを求めて生きる。清貧な暮らしを決して貧しいと思わないで、常に求める志を失わないように心掛ける。いうは優しいが、心を惑わす誘惑の多い現世ではなかなか「裸木」にまでなることは難しい。
咳く君の背中さすりて奈良ホテル
東京  川瀬佳穂
「奈良ホテル」に固有名詞の迫力がある。ホテルの部屋の中なのかロビーでのことなのかわからないが、私は後者の場面を想像する。部屋の中だと背中をさすろうが触ろうが表現する意味がない。二人の行為が見えるので表現の意味があるのである。困惑しているところに臨場感がある。
冬銀河生より長い死後のこと
三重  渡邊紘男
死後がどれくらい長いのか、誰も知らない。多分長いだろうと想像するだけ。冬の銀河を見上げるとそんな気になる。悠久というこの世では実感できない思いをふと想像できるような気分になる。父母や友人や知人など亡き人を思うことが、死後の世なのかなとも思う。
雑詠-山本洋子・選
振り向きつ狸去りけり山日和
静岡  渡邉春生
山里に棲む狸は、良い日和には民家の近くまでやってくる。畑に悪さをするが、その姿はどこか剽軽で憎めない。山道で出あったのだろう。悠然と去っていく狸が振り向いた。誰だっけと思ったのかしら。狸と共存する里の心満ち足りた暮らしがある。「振り向きつ」に臨場感がある。
もう一人座る場所ある日向ぼこ
福島  阿部 弘
こよない日向。そこは自分のお気に入りの場所だ。見晴らしもよく木々の梢からさす日差しが燦々と輝く。気がついたらもうひとりは横に座れるのに、こんな素晴らしい乾坤はあの人とこの人と共に楽しんでこそ。呼びたい人をあれこれを思いうかべている。日向ぼこ三昧の感慨である。
山姥のごとく落葉に埋れ棲む
山口  御江やよひ
毎日毎日ふりしきる落ち葉はたちまち門前も裏戸にも降り積もり、掃き寄せるのだがとても間に合わない。わが家は落ち葉の中に埋もれた感じで、ここは山姥の住処ですか、と言われそうだなあ。落ち葉を掃きあましながら、そんな季節を少し楽しむ気配が「山姥のごとく」に表れている。
兼題
今月の兼題…【木】
兼題-大高霧海・選
木枯や海の荒波死者の跳ぶ
長野 土屋春雄
木の精の跳ね踊りゐる榾火かな
茨城 羽鳥つねを
十夜婆木魚叩いてなむあみだ
兵庫 森山久代
兼題-佐藤麻績・選
北近江仏の眠る冬木立
京都 村山勝則
樹木医のおだやかな声冬に入る
神奈川 竹澤 聡
燻りつつ生木燃えだす涅槃かな
群馬 小暮駿一郎
兼題-田中陽・選
木訥に寒い傾きだす日本
北海道 澤田吐詩男
裸木を見上げつくづく人の愛
茨城 渡辺浮山
木の葉髪秘密保護法レレレのレ
北海道 武田 悟
兼題-名和未知男・選
冬木の芽佳きことのみを母に告ぐ
兵庫 石原糸遊
残す木のために木を伐る山始
三重 樋口良子
木守柿残りてみんないなくなり
奈良 宮武孝幸
兼題-山下美典・選
命とは光とおもふ冬木の芽
愛媛 堀本芳子
芝居がかりて始まれり成木責
埼玉 横田幸子
枯野来て木喰仏の笑みに逢ふ
東京 川瀬佳穂

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