●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2018年4月号 ○
特   集
巨星墜つ!
哀悼 金子兜太
追悼文 稲畑汀子 宇多喜代子 高野ムツオ 有馬朗人 他
特   集
俳句はなぜ“旧かな”なのか?
特別作品50句
宮坂静生
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、他
セレクション結社
宮谷昌代「天塚」
俳句界NOW
白濱一羊「樹氷」
甘口でコンニチハ!
北野譲治(実業家)
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
北風吹くや伊都の王墓の鳴るまでに
福岡 阿比留初見
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
山の子の両手で受ける初日かな
長野 種山せい子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
カラヤンを偲び真紅の冬薔薇
千葉 前畑桂子
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
ホスピスの白き扉に小鳥来る
福岡 白水朝子
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂 未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、原和子、山尾玉藻(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
遥かなる山河越え来し手毬唄
京都 佐々 宙
手毬突きの遊びは鎌倉時代の前期に始まったと言われる。それに伴って手毬唄も全国各地で作られた。            新年になって手毬唄を思い出して歌った。それは道々と遠くの国から、山河を越えて伝わってきたものであることが、            歌詞から分かるのであった。ロマンのある句である。
*なまはげの落としてゆきし今年藁
福岡 森田和をん
なまはげは、秋田県の男鹿半島で十二月三十一日か、一月十五日の夜に行われる行事である。            藁蓑などを着た男が家々を訪ねて、「泣く子はいないか」と子供を脅かして廻る。そのなまはげが去った後に藁が落ちていた。            それは新しい生き生きとした今年藁であった。臨場感がある句。
親鸞忌仮名をふりたる経を詠む
富山 西野睦子
親鸞忌は東本願寺では太陽暦の十一月二十一日~二十八日、西本願寺では一月九日~十六日に行われる。            親鸞は浄土真宗の開祖である。念仏弾圧で越後に流され、常陸などで伝道布教をした。            自ら凡夫であると言い、わかり易く伝法を解いた。仮名をふった経を詠むところが親鸞忌らしい。
雑詠-稲畑廣太郎・選
落暉今サグラダファミリアの聖夜
福島 椎木亜美
かの有名な、建築家アントニオ・ガウディの設計したスペイン・バルセロナにあるカトリック 教会サグラダファミリア(聖家族)である。特にヨーロッパには有名な教会は数多あるが、その 一つであるこの教会でクリスマスを過ごされたのである。神聖で贅沢な時間と空間が感じられる。
セーターに首入れけふのはじまりぬ
香川 大野領子
朝起きて、その一日の始まりが季題を通してしみじみと伝わってくる。サラリーマンであれば、            背広にネクタイ姿に着替えた時にその日が始まるのだろうが、セーターを着てその日が始まる人            とは、どのような人かを想像するのも楽しい。冬のある一日が、季題を通して豊かに伝わる。
柴犬と富士と並べて暦売
高知 渚みどり子
十二月になると様々なカレンダーが、最近では書店や文房具店等に並べられることが多い。季            題の様相も変わってきたが、カレンダーの中でも富士山はやはり定番だろう。平成三十年は戌年            で、柴犬とは何とも日本的である。世相を反映した季題の姿が楽しく見て取れる。
雑詠-今瀬剛一・選
古暦影もろともに外しけり
埼玉 豊田靜世
一年の終りに古い暦をとり外すのは名残惜しいもの。この句にはその暦を外す時の思いがよく            表現されている。まさに「影もろともに外」すのだ。この表現には古い暦の存在の大きさととも            にそれを取り払った跡の空白が遺憾なく表現されている。「けり」に作者の強い思いを読み取る。
ふるさとの山は大山風花す
広島 谷口一好
大山だいさん」は伯耆富士とも呼ばれる鳥取県西部の名山。作者はその大山を仰ぎつつ育ったのだろ うか。「ふるさとの山は大山」と言い切ったところに故郷への誇りの様なものを感じた。しかも 風花の中にそれを意識している。はらはらと降る風花の中、遠く聳える大山が輝いて感じられる。
潮満ちくるときの静けさ鵙鳴けり
広島 津田和敏
作者はいま満ち来る潮を眺めながら静かな感慨に耽っている。心は澄み切っていたことだろう。            ふと激しい鵙の声で我に返った。そして今まで自分は「潮満ちくるときの静けさ」を感じていた            と意識したのだ。「潮満ちくるとき」と豊かにいい、「鵙鳴けり」と激しく言い放つ表現が巧い。
雑詠-大串章・選・選
少年兵生きて卒寿の畑を焼く
大分 下司正昭
嘗て少年兵だった人が、卒寿になった今も元気に畑焼きをしている。有り難いことである。因            みに、わが国は太平洋戦争中、多くの少年兵が戦争の犠牲となった。特攻攻撃に動員されたり、            沖縄県の鉄血勤皇隊に組み込まれたりして、尊い命を失っている。再び戦争をしてはならない。
難民の子に贈りたしこの聖菓
神奈川 劔物劔二
住む家も着る衣服もなく、食うや食わずの生活をしている難民の子どもたち。やせ衰えた難民            の子の写真を見るだけで心が痛む。何の罪もない子が、どうしてこんな目にあわなければならな            いのか。難民の子においしいクリスマスケーキを贈りたい、と言った所に作者の優しさがにじむ。
文筆は毛糸を編むに似て独り
東京 川原瀞秋
文筆を毛糸編みに喩えたところがユニーク。たしかに、文章を書くのも毛糸を編むのも独りの            作業である。ひたすらペンを走らせ、一心に編み棒を動かす。この句を読んで私は、文章を書き            俳句に熱中する作者と、子供のため懸命に毛糸を編む奥さんの姿を想像した。
雑詠-大牧広・選
忘年や神父の唄ふ革命歌
千葉 原 瞳子
意外性があり感銘した。神父は立場上公正で、つとめて私情を容れないという考えであったから、その意味で注目した。            革命歌と言っても人道に背いた許せぬ歌と、そうではない人間の良心に訴える歌があり、当然後者に属するのである。
車道の石拾はれずある寒さかな
群馬 石原百合子
じつに寒さを実感する。あの石が、どんなにか交通事情を悪くさせるであろう。でも誰もその石を除けようとしない。 人の心のありようを一人一人が思うのだが、その石は相変わらずそのままである。心の底から寒くなる。「かな」が効いている。
柚子湯して父の享年越ゆるかな
静岡 渡邉春生
しみじみと共感する。柚子湯して、ふと気のつくと父の享年を越えている。 長生き時代であるけれども、やはりこれからも健康第一をつくづくと考えたのである。柚子湯に説得力がある。
雑詠-櫂 未知子・選
マスクして少し素顔になりにけり
福岡 矢野二十四
「マスク」は顔を隠す、本心を隠すというように詠まれがち。しかし、この句は全く逆の詠み方をしている。            顔のあらかたを隠すことによって、かえって「素顔」を出せるようになった、その心理がどこか切ない。
隠沼も少し遅れて初明り
宮崎 浅尾ゆめ子
隠沼こもりぬ」は、草木に隠れて見えない沼を指す。 ひっそりと隠れているから当然といえば当然だが、 ほかのものに及んでいた光が、この沼にはワンテンポ遅れて届く。古語を上品に復活させてくれた作品だといえるだろう。
ものさしの裏の旧姓針供養
東京 佐藤多美子
「ものさし」と「針供養」は、いわゆるベタの関係に見えてしまいそうだが、この句、とにか             く「旧姓」がいい。嫁ぐ前から使っていたものさしをいまだに使っている作者、そこには丁寧に             暮らして来た歳月が見えるよう。
雑詠-角川春樹・選
年逝くや人に未完の人類史
神奈川 髙野知作
中七下五の「人に未完の人類史」という大きな措辞に惹かれた。確かに人が存在する限り、人 類史に完成はない。掲句は、逆説的に人類の抱える諸問題を指摘した警句ともとれる。作者の鋭 敏な時間意識の光る一句である。
寒の水少女の指を跳ね返す
埼玉 諏訪一郎
寒の水にまつわる神秘と、少女の健康な生命が見事に響き合っている作品。下五の「跳ね返す」            という措辞から、作者が寒の水に見て取った硬質さ、霊感が伝わってくる。
隣り合ふ本家分家や竈猫
愛知 山口 桃
映像の復元力が確かであり、一読して集落の景が浮かび上がってくる。季語としてもってきた            竈猫にもリアリティーがある。あたたかく、さりとて近親のしがらみも垣間見えるところがいい。
雑詠-古賀雪江・選
寒禽や枝を替へても灰褐色
神奈川 藤田せつ
林中の枯れ果てた木々の中を、短く声を落としては、頻りに枝移りをする寒禽である。声を追            うが姿は木々の色と同じで、中々とらえることが出来ない。作者はそんな鳥の姿をともすれば見            失ってしまった。蕭条たる冬木立に、枝を替えては移る鳥の姿を配して枯山の景を作り上げた。
ビル街の底冷じつと動かざる
秋田 野越三雄
底冷のビル街が人影も無く、風も無くただただ冷え切っている。底冷えが地の底から這いあが            ってくるような寒さである。「じつと動かざる」に余りの寒さに作者の心もとなさも感じ、心象            表現にも通うものを思った。派手な道具立てはないが、安易ではない平明さを思った。
湯煙をまとい箱根の山眠る
愛知 加藤鋹夫
箱根山は、富士箱根伊豆国立公園の中核部にあって、複式火山の典型と言われる。景観に富ん            でいて温泉の湧出が豊かであり、箱根七湯の他にも名立たる温泉街が数々ある。先頃の小噴火の            心配も解決して、各所より盛大な湯煙が上がり、箱根山は穏やかな冬のさまにあった。
雑詠-佐藤麻績・選
仲見世を通れば江戸の師走あり
神奈川 武田道子
日本は四季のある国であるため、季節を意識して多くの行事が催されて来た。行事は関わる人々            の仕事、殊に商売と強く結びつく。その最も明らかな場所として浅草は存在している。浅草はこ            の作者のように「通れば江戸の師走あり」と感じる。「通れば」と詠まれた処に把握がある。
己との対話よ五年日記買ふ
大阪 由良芳子
日記は創作ではない。思いのままを著そうとはじめる。それが「己との対話」であろう。だが            何の考えもなく記すことはないはずだ。むしろ己が明らかになって、それに対する別の道を考え            ようとするものだ。その己との対話をしばらくの間続けてみようと、五年日記を買ったのであろう。
夫婦とは喧嘩友達すす払ひ
大阪 岡田たけし
夫婦とはそれぞれ特色のある組合せである。この句の作者は喧嘩友達と意識されている。喧嘩            する自由があり互いの意見の交換が出来るから夫婦の関係が具合よく保てるのであろう。ここに            到る歴史もあるはずだ。それが立派である。歴史があるから、「すす払ひ」の季語が収まった
雑詠-鈴木しげを・選
反故焚いて夫には夫の年の暮
岡山 生田恵祐
年の終りのひと日。新しい年を迎えるために家庭をあずかる者は何かと忙しない。猫の手も借            りたい年用意なのである。夫はと見ると庭先に出て悠然と不要となった文書を焚いている。家事            の忙しさに加わらず夫は夫の年の暮れを過ごしている。感慨深い作である。
自転車のペダルは二つ枯木星
神奈川 正谷民夫
落葉し尽した欅や楢は枯木と呼ぶにふさわしい。枯枝のすき間に星がまたたいている。それら            の木立の道を作者は自転車を漕いで家路を急いでいるのだろう。夜風を切ってすすむペダルに力            が入る。「二つ」はあたりまえのようでいい発見。
絵らふそく母子で選りて十二月
福岡 池上佳子
一年の終りの十二月。なんとはなしに気忙しいものだ。そんな暮しの中にあって掲句のように            母子して絵蝋燭のうつくしさに心を寄せる時があるのがなんともいい。絵蝋燭作りは手間のかか            る仕事である。かつての城下町の趣を残す古都に母子で出かけたのであろう。
雑詠-田島和生・選
夜勤終へ神楽の竜となりて舞ふ
愛知 尾崎恵美子
神楽は伝統的な民俗芸能で、主に冬季に出雲や伊勢、安芸、石見など各地の神社で行われる。            スーパーや飲食店などの夜勤を終えると、戻って神楽舞の仲間に入る。太鼓や笛の音に合わせ、            竜神になって激しく舞う。夜勤で働く職業人が一転して竜神に変身して舞うのである。
裏木戸に迫る海あり冬来る
北海道 三泊みなと
家の裏に海がある。庭に出て、木戸を開ければ、もうすぐそこは広い海である。今朝は波音が 大きく、凄まじい。波は遠くからうねり、岩場を越え、崖にぶつかり、とどろく。いよいよ厳し い冬の到来である。「裏木戸に迫る海あり」の措辞が鮮やかで、「冬来る」にぴったりである。
鰤食うて声若返る寮歌かな
富山 青木和枝
日本海側では鰤漁が盛んになる冬場、天が割れるように鳴る雷を鰤起しという。本場の富山湾、            氷見漁港では水揚げされた鰤がどっと各地へ出荷される。鰤はうまい。同窓会で新鮮な鰤を食い、            青春時代に戻ったように声まで若返って寮歌を歌う。「鰤食うて声若返る」が面白くて愉快だ。
雑詠-辻 桃子・選
虚子の湯にまつたり浸かり宝舟
兵庫 百目鬼 強
これは〈虚子の忌の大浴場に泳ぐなり 桃子〉に詠まれた大浴場のことだろう。作者は宝舟の            絵を敷いて寝ると縁起のいい初夢を見ることができるという習俗にあやかって、この湯にまった            りと浸かっている夢を見たのだ。高濱虚子にも〈宝舟目出度さ限りなかりけり〉という句がある。
親方が途中より来て松手入
奈良 佐藤文俊
庭木の手入れを頼んだら、まず若い者が来て作業を始めた。あらかたの木の手入れが終わり、            松の手入れを始めた。ほどよい頃を見計らったように親方がやって来て、おもむろに松の仕上げ            に取りかかった。「途中より来て」に俳味があり、この庭の主のほっとした顔も見える。
釘刺せるまま消炭となりにけり
愛媛 渡部洋三
「消炭」は、燃えさしの薪やいったん赤くおこった炭を中途で消してできたやわらかい炭。火            を点けようかと見やれば、釘が刺さったままの消炭だった。何の材だったのか、解体した古材を            そのまま薪にしたのだろう。刺さったまま釘が焼け焦げているのには、深いあわれをさそわれる。
雑詠-夏石番矢・選
月や今も僻地を銀色にする風
福島 呼吸
この人の言語は他の投句者とはまったく異質。同時投句〈雪も我も空を傷つけてばかりいる〉            も秀逸。こちらの句は、「僻地」の、メルヘン的でありながら、かつ底知れず恐ろしいありさま            を現代語で書ききっている。「銀色」はセシウムかもしれないが、単に美しいだけの色ではない。
荒星や睡りをさそふ櫂の音
神奈川 山口せうこ
松尾芭蕉の名句「荒海や」に対する「荒星や」。ここから通常次元とは違う。やはり海、いや            海上の世界。手漕ぎの船の大小は不明。規則正しい音は、睡眠へといざなう。私は「荒星」を季            語と認めない。したがって、この句は無季。『万葉集』には船旅の歌が多く、この伝統につながる。
冬銀河土偶の尻の大いなる
神奈川 金澤一水
縄文時代は長く、地域差もある。土偶も多様。とりわけ女の像が多い。多産を象徴する臀部の            異例な大きさ。「冬」の語源はある説では「殖ゆ」。どん底の生命力が一転、増殖へと向かう。縄            文人が銀河を知らなかったはずはないが、どうとらえていたか。七夕は渡来人がもたらした。
雑詠-行方克巳・選
狼の眼の玲瓏として亡ぶ
神奈川 大矢恒彦
日本狼がいつごろ滅亡したのか私は知りませんが、まことに残念なことです。この句の狼は、            写真か、それとも剥製でしょうか。あるいは日本狼ではないのかも知れませんが、その眼は美し            く透き通っている。そのような素晴しい存在が生態系から消えてしまうことはさびしいことです。
遮断機に塞がれ釣瓶落しかな
佐賀 篠原凉子
あれこれと忙しい時に限って遮断機に塞がれていらいらすることがあるものです。何分もの間            待たされるのが常である、「開かずの踏切」などもあるくらいです。でもこの句の作者には、踏            切の向こうに沈んでゆく夕日を眺めるだけの余裕が感じられますね。
今年また仮設住宅より賀状
千葉 岩瀬孝雄
東日本大震災は、日本周辺で観測された最大の地震であった。またそれによって起こった原発            事故のために未曾有の災害になってしまった。人災というしかない要素が多くの人々を今も苦し            めている。あれから何年もたつのに、まだ仮設住宅での生活を強いられている人も多い。
雑詠-西池冬扇・選
もう影もなくなりさうな冬の蠅
青森 青田士郎
夏には「五月蠅い」蠅も冬には消え入りそうな影のように希薄な存在になる。じっと日向の蠅            を見つめる作者は時間や小さな命の存在の不思議さを感じ取ったのだろう。この句は「冬の蠅」            というモノの姿を眼で捉え、イメージとして一息に表した。「冬の蠅」の形象として的確である。
厩より新たな息吹冬の
新潟 阿部鯉昇
に新しい生命が誕生した。それを祝福するように強く光る冬の星が見下ろしている。新たな            息吹が表すモノは新しい生命、待たれた仔馬かもしれないし、救世主や新たな時代の誕生かもし            れない。優れた俳句の「喩」は「曖昧さ」によって豊かなイメージを生み出すことが可能である。
冬の河大きく海へ舵を切る
東京 戸井田英之
「冬の河」は静というにふさわしい景である。一艘の船が突如大きく舳先を海に変じた。その             動的なイメージの変化がポイント。この転換の景から我々は冬の外海の大きなうねりを思う。ま             た未来への不安や希望すら想起するかもしれない。情を排した景は読者の創造力をかきたてる。
雑詠-能村研三・選
引力の転がつてゐる冬林檎
岐阜 七種年男
ニュートンは林檎が落ちるのを見て万有引力を発見したといわれている。引力を感じるのは、            まだ取入れ前の林檎の木にぶら下がっている時で、この冬、林檎は食卓に転がるように置かれて            いて、すでに忘れかけた引力の記憶を蘇えらせているのかも知れない。
雪吊に風の旋律生まれけり
島根 東村まさみ
北陸の風物詩でもある雪吊り、木に添えた支柱の上から百本の縄が円錐状に広がり造形的な美            しさを演出する。風が吹いてくると雪吊りはまるで竪琴を奏でているようにも見える。
初暦背筋伸ばして掛けにけり
大分 金澤諒和
新暦というと、暦自身がまだ新しいので、丸まった暦の癖を直すことが句に詠まれることが多            いが、この句は初暦を掛ける人が詠まれているのが面白い。今年も良い年となるように念じて、            背筋をピーンと伸ばして初暦を壁にかけた。
雑詠-原 和子・選
裸木になるも桜はさくらの木
千葉 三山 九
花時になるとどこも「さくらさくら」で浮き立つが、桜は花時ばかりでなく四季折々の風格を            見せる。桜紅葉の後、すっかり葉を落とし裸木となった枝に赤い花芽を見つけるだけで花が予感            されて心が踊る。裸木になっても桜は別格、やはり「さくらの木」である。
英字紙で包む花束漱石忌
大分 森次よう子
夏目漱石は、英国留学中に見物したロンドン塔の感想をもとに「倫敦塔」という作品を書いて            いる。英文学者でもある漱石と英国とのつながりは深い。作者は英字新聞で包まれた花束によっ            て、文豪漱石の忌日を身近に受け留めている。
哀楽の楽のみ記し日記果つ
兵庫 塩谷忠正
最近は連用日記も多いが、「日記果つ」には一年を無事に過ごしたという思いが籠る。日常では、            とかく「哀楽」のうち「哀」の方に心が向くが、日記には「楽」のみを記すというのは、作者の            知恵である。前向きに新しい年を迎えようという思いの表れでもあろう。
雑詠-山尾玉藻・選
*なまはげの落としてゆきし今年藁
福岡  森田和をん
「なまはげ」の纏っている胴蓑や腰蓑は全てその年の稲の今年藁で編まれている。「なまはげ」 は「悪い子はいね~か~」「怠けものはいね~か~」と大袈裟な身振りでのし歩くが、その大仰             な動きで蓑から「今年藁」が抜け落ちたのだろう。「なまはげ」の落し物が「今年藁」とは愉快。
午後二時のヘッドライトの吹雪かな
兵庫 山岸正子
本来なら「午後二時」は明るい筈だが、激しい「吹雪」である。そんな中、向こうから点灯し            た車がゆっくりやって来る様子だが、作者には丸いライトの中で激しく降る雪しかはっきりと見            えないのだ。特殊な景が十七文字に見事に集約されている。
セーターを着せていつまで吾が子なる
大分 金澤諒和
小さな子はセーターを上手く着られない。作者も吾が子に「セーター」を着せながら、「直ぐ            にこの子も自分で着られるようになるだろう」と思った瞬間、ふとしんみりとした心境となった。            「いつまで吾が子なる」の感慨に親心の普遍がある。
兼題
選者:大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)
今月の兼題…【中】
兼題-大高霧海・選
空っ風はためく中の核の傘
大阪 西田唯士
開戦日校長訓示霜の中
福岡 宮辺博敏
初日影明治を恋ふる戦中派
東京 柴田孤岩
兼題-岸本マチ子・選
海鼠嚙めば深海の闇口中に
埼玉 成田淑美
くまもんのお腹の中より大嚏
神奈川 磯村昌子
天体ショー見むと背中に貼るカイロ
茨城 島田楷人
兼題-高橋将夫・選
戦中を生きて戦後の煤払ふ
群馬 小暮駿一郎
まだ途中薬飲んだり花見たり
東京 田島映子
神域の中に熟れたる蛇葡萄
愛知 水野恒彦
兼題-名和未知男・選
回天の御魂鎮めや水中花
東京 宇井偉郎
海鼠腸を啜り長寿の途中なる
埼玉 鈴木まさゑ
達治の雪明けて中也の雪となる
埼玉 中村万十郎





2018年| 5月4月3月2月1月
2017年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2016年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2015年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2014年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2013年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2012年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2011年| 12月11月10月9月8月7月6月5月4月3月2月1月
2010年| 12月11月10月9月8月7月6月
定期購読のご案内
・毎月25日発売
・A5判
・定価1,200円(税込)
半年間 6,500円(700円お得)
1年間 12,500円(1,900円お得)
2年間 24,000円(4,800円お得)
定期購読は送料サービス

※定期購読割引は、直接小社にお申し込み戴いたお客様に限り、適用されます。その際、ホームページでお知りになった事をお伝えください。

※購読期間中に特別価格号が出た場合、 差額は当社で負担致します

・ご質問やご不明な点がございましたら、フリーダイヤル  0120-819-575、または、お問い合わせフォームからお問い合わせ下さい。