●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2018年5月号 ○
特   集
現代評論の問題点
~俳句評論家鼎談
大輪靖宏 坂口昌弘 角谷昌子
特   集
句集を作ろう!
~俳句の魅力、句集の魅力
特別作品50句
田中 陽
充実の連載陣!
「牡丹と怒濤ー加藤楸邨伝」石寒太、他
セレクション結社
今井豊、中岡毅雄 「いぶき」
俳句界NOW
伊藤晴子「春嶺」
甘口でコンニチハ!
山尾志桜里(衆議院議員)
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
河内静魚、山尾玉藻(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、角川春樹、岸本マチ子、古賀雪江、坂口緑志、佐藤麻績、鈴木しげを、辻桃子、夏石番矢、西池冬扇、原和子、山田佳乃(敬称略)
兼題選者
大高霧海、高橋将夫、田島和生、田中陽、中西夕紀、名和未知男、能村研三(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
散らかして落ちつきにけり炬燵部屋
三重 藤原 紅
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
水を割り翁しづかに寒泳ぎ
長崎 内野 悠
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
ラーメンに並ぶ若者日脚伸ぶ
埼玉 中村万十郎
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
冬銀河地球の隅で抱き枕
大阪 大河内レモン
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂 未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、原和子、山尾玉藻(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
*若冲の鯨潮吹く大旦
奈良 髙畑美江子
元旦に飾ってある絵を見ると、鯨が潮を吹く堂々たる図であった。勢いのある見事な鯨の姿が 元朝らしい雰囲気である。この描き方から若冲のものに違いない、と思って確かめると正にそう であった。大旦と若冲の潮吹く鯨との取合せを詠ったところが佳い。
芽柳の揺るる舟入高瀬舟
京都 佐々 宙
高瀬川は京都の二条通木屋町の一之船入いちのふないりで鴨川から分水し、南流する運河である。 昔、高瀬舟を運行したので高瀬川と呼ばれる。高瀬舟が浮いていてその周りにさまざまな樹や草が生えていて美しい。 その舟入あたりの芽柳が風に揺れている。それを見るともう春だと心が弾むのである。
秋深む今日もゴドーを待ちながら
神奈川 穴澤秋彦
フランスのサミュエル・ベケットが作った戯曲に「ゴドーを待ちながら」がある。ゴドーを二 人の男が待ち続けるという話である。秋の深い今も、ゴドーを二人の人が待ちながら何か話し合 っているような光景を描いたところが面白い。
雑詠-稲畑廣太郎・選
小鼓の激しき一打淑気満つ
奈良 渡邉多惠子
図らずも音楽を題材とした三句を特選に選んだが、こちらは能楽の小鼓である。激しく奏でる ものとしては道成寺が有名だが、新年の能楽会であろうか。小鼓は結構太い音が出るが、激しい 一打にめでたい淑気を感じている作者なのである。凜とした日本の美が心にまで響いてくる。
革命のエチュードを弾く年の夜
長崎 山本雅子
ショパン作曲練習曲作品十の十二番目の曲であり、左手が活躍するかなり難易度の高いピアノ            曲である。「革命」という題名の通り、情熱的な曲想である。その年最後の夜にこの曲を演奏し            ている作者なのである。新しい年を迎える、決意のようなものを感じるのは筆者だけだろうか。
大ホールぴたり弦止む淑気かな
鳥取 石渕さゆり
新年の大ホールでのコンサートといえば、ムジークフェラインザールで行われるウィーン・フ            ィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートを想像するが、弦楽器が鳴るのではなく「止            む」と表現したところが秀逸である。弦の残響が未だホールに響いている、至福の時間である。
雑詠-今瀬剛一・選
紅き橋紅く映りて冬の水
富山 青木和枝
冬の季節感のよく感じられる作品。辺り一面は枯れ果てているのであろう。それだけに橋の紅            さが鮮明に水面に映えるのである。「紅き橋紅く映り」というリフレインを効かせた表現もいい。            この繰り返しによって「赤」という色が強調された。私は冬晴れの日を思ったがいかがだろうか。
新任地甘い香放つ野水仙
愛知 浅井清比古
「新任地」という言葉と「野水仙」という季語が明るく響き合っている。しかもこの野水仙は 「甘い香を放つ」という、この表現で新任地はより初々しい言葉となり、野水仙は明るい広がり をもって読者に迫ってくるように思える。作品の中の言葉が柔らかい緊張感を生み快くひびく。
大空にひかり返して軒氷柱
東京 伊藤たか子
軒に垂れ下がっている大きく太い氷柱を即物的に捉えている。氷柱の周りには空が広がってい るのだ。この氷柱はその空に対して一歩も引けを取らないように思える。それは「ひかり返して」 という表現が生きているからである。この氷柱を主体とした表現が作品全体を骨太にしている。
雑詠-大串章・選・選
恒河沙といふ数のあり雪催ひ
福岡 池上佳子
「恒河沙」(ごうがしゃ)は数の単位、十の五十二乗(一説に十の五十六乗)である。「雪催ひ」 は今にも雪の降りそうな空模様、無数の雪片を思わせる。この句、「恒河沙」と「雪催ひ」がひ びきあい、スケールの大きな句になった。見事と言うほかない。
レントゲン画像が吾の初写真
東京 竹内柳影
新年を迎えて初めて撮る写真を初写真と言う。家族全員で写したり、仕事始めの仲間と撮った            りする。〈初写真五人育てし母の笑み 掛川重信〉も記憶に新しい(3月号特選)。こうした中で、 掲句は実にユニーク。レントゲン写真が自分の初写真だというのだ。俳諧味あふるる句。
泣きて幕笑ひて幕や初芝居
大阪 西河光枝
芝居にはさまざまな物語があり、人間模様が描かれる。芝居はストーリーに従って進み、人の 泣く場面で幕引きとなったり、人の笑う場面で幕引きとなったりする。観客はそのつど涙を流し、 大きな声で笑う。この句、「泣きて幕笑ひて幕」と言った後「初芝居」と据えたところが見事。
雑詠-大牧広・選
老いてなほ土曜日用の冬帽子
東京 樋口昇る
前向きで感じのよい句になっている。齢を重ねても暮しに余裕がほしい。また、その気持が必 要である。その意味で「土曜日用」という言葉は的を射ている。ようやく高齢の一週間が終わる。 だから気に入っている冬帽子を冠って、旨いコーヒーでも飲みに行こう。そんな句意であろう。
干しても干しても縮む蒲団やまだ仮設
埼玉 波切虹洋
切ない気持がつたわってくる。仮設住宅はうずくまるようにして建っている景が記憶にある。 太陽の光はさしているものの日陰という感じが強かった。一日中蒲団を干しても、ふっくらとし た感じにならない。「まだ仮設」に吐息のような感じがつたわる。
筆談に敬語を使ひあたたかし
神奈川 安室敏江
なにかの状況で、筆談で会話をすることになった。「筆談」自体がスムーズでないのに、敬語 で交わしている。この句を読んでいると、ほのぼのした気持につつまれる。希望を感じさせる俳句である。
雑詠-櫂 未知子・選
雪搔いて己が車となりにけり
青森 神保と志ゆき
これは雪の多い地方在住のかたならではの句。一読して「うまい!」とうなった作品である。 すっぽりと雪に覆われた自家用車を掘り出すようにして掻き、そしてやっと、全貌が見えてくる。 「己が車」に実感がこもる。
初夢の歌垣の輪に入りてをり
大阪 富田栄子
「初夢」は案外難しい季語。なぜなら、ひたすら作者にだけわかっているからである。この句 の「歌垣」は古代、男女が歌を詠みかわして遊んだ行事で、句におおらかな味わいを与えることができた。
久女忌の纏へば見えぬ紐あまた
静岡 渡邉春生
「紐」はもちろん、杉田久女の代表句の一つの〈花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ〉を踏まえた もの。久女の句とは全く逆のバージョンにしたところが面白い。見えぬしがらみや拘束を抱えて 生きる女性の姿がこの作品から見えてくるようだ。
雑詠-角川春樹・選
煮こごりや星座しづかに語りだす
鳥取 石渕さゆり
煮こごりは、魚などの煮汁がかたまったもので、独特の風味から料理としても作られる。掲句 では、星空と照応させることにより、空間に奥行が出ている。また、星座の瞬きが、煮こごりの 風合いを美しく引きたてている。
ボルシチがぶつぶつ言って外は雪
長野 本間克子
ボルシチは、肉や野菜を煮込んだロシア料理のスープで、深紅の色彩が特徴的だ。掲句は、ス ープを煮込みながら雪のなかを帰る家族に思いを寄せているのだろう。中七の「ぶつぶつ言って」 という措辞は、家族を心配する様子とも一日の愚痴ともとれ、ユーモアがある。
去年今年描きかけの絵に待たれをり
愛知 石川公子
「描きかけの絵」に待たれているという切迫感がいい。実際の制作途中の絵画かもしれないし、 あるいは作者の追い求める理想の景であろうか。新年を迎えた時間意識と人生の感慨が交錯している。
雑詠-古賀雪江・選
きんきんと子を𠮟 る声年つまる
福岡 山邉さなゑ
上五の「きんきんと」で、年の瀬の忙しさ、母の苛立ちなどがしっかり伝わってくる。きんき んは、金属的で耳に不快にひびく甲高い声の事である。短日の夕暮であろうか。思うように動か ない子供に苛立ちも頂点に達した母の声は、殊更に寒暮を感じさせる響きがある。
泥葱を土に戻せば立ち上がり
神奈川 亀村唯今
最も庶民的な冬野菜の一つであって、葉鞘の白色部を食べる根深葱、緑色部を主とする葉葱が あり、前者は主に関東、後者は関西で栽培されている。泥付きの葱を庭畑の土で囲ったのであろ うか。少し萎えかけていたのが土に馴染んだ途端にぴんとなった。生き返ったのである。
氏神へ間垣を越えて波の花
福井 村田 浩
厳寒の頃、雪国の岩場に砕け散った波が、風にもまれて白い泡になり、凍った磯一帯に花のよ うに舞い飛ぶのが「波の花」。「間垣」とは、能登半島で風除けのために家屋や樹木を竹で高く囲 うという、この地独特のもの。その高い間垣を越えて氏神へと飛んできた波の花であった。
雑詠-佐藤麻績・選
さまざまの背中を見せて初詣
東京 渕上信子
初詣ではそれぞれの事情で神社仏閣に集まる。正面のご本尊を拝するために人は幾重にも重な って進む。人の背中を見、己の背中を見せることになる。背中はその人を語るとも言う。そこに は人生があるということを作者は実感されたのだろう。
大寒の臍うつくしき菩薩かな
神奈川 盛田 墾
寒の最中菩薩を目にした。大寒とは寒さの極みの時であるにも拘らず、おからだの輝き、その 臍の美しさに見入られたのであろう。今更ながら美しさとは何であろうかと感じ入った。感動の 対象にはある時ふと出会うものと言えそうだ。
若冲の鯨潮吹く大旦
奈良 髙畑美江子
伊藤若冲の絵は写生的であるばかりか、見事な装飾画体で大胆である。鯨が潮吹く絵は未だ見 た事はないが、さぞやインパクトがあるだろう。その様な絵を元朝の清々しい中で目にした感動を伝えられた句であろうか。
雑詠-鈴木しげを・選
ランナーの過ぎて枯野に戻りけり
福岡 髙山桂月
蕭条たる冬野の景も最近は見られなくなっているのではないか。掲句は郊外のマラソン大会で あろう。ランナーに伴走する車から声がとび、沿道には手旗を振っての応援の声がにぎやかであ る。しかし、それも一時で、あとは枯野のさびしい景があるばかりである。
冬耕を称へ夕映え惜しみなし
埼玉 曷川 克
冬耕は説明するまでもないが、冬に田畑を耕すこと。土壌を肥す作業である。こうしたきびし い農作業があって春秋の収穫につながる。冬耕を称えるように夕映えの茜空がうつくしく燃えて いる。「惜しみなし」に一句の心映えがある。
寒の水したたる楮運びをり
兵庫 山尾カツヨ
「紙漉」は俳句では冬季とされている。寒中に漉いた紙は上質とされるが何よりも水質のよい 渓流がなければならない。紙の原料である楮を蒸し、剥いた皮を水に晒す。掲句はまさに寒の水 に晒した楮を運んでいる一句。「したたる」で単なる報告になっていない。
雑詠-田島和生・選
銭湯の富士に日の射す小正月
大阪 宮尾正信
正月十五日の小正月。いつまでも正月気分を味わいたい遊び人にとっては、またとない祝日で ある。朝から手拭をぶらさげて町の銭湯に行けば、顔なじみの人ばかり。こんこん湧き出す湯舟 にゆっくり沈む。目の前の大きな富士山の絵に朝日が射す。至福の気分を鮮やかに描いた優品。
猪垣をめぐらす島の教会堂
福岡 奥苑靖子
島といっても、かなり大きい島であろう。ここでも最近は、猪が山から出て農作物を荒らし、 食べものを漁ったりする。教会の周りにも出没するため、思い余って鉄線などの垣を設けた。教 会の信者は猪垣の中でお祈りするという意外な現代風景を詠み、味わい深い。
先生と干支一回り木の芽和
東京 大網健治
先生と私はどんな関係か判らない。学校、書道、茶道、いや俳句かもしれない。年齢、性別も 判らないし、先生は年下かもしれないが、干支が一回り違う。その先生と一緒に木の芽和を食べ ている。山椒の香る若竹料理だろうか。読み手は自由に先生を想像するという楽しい作品。
雑詠-辻 桃子・選
初神楽島づたひにて公演す
岡山 小路広史
兵庫県舞子の浜には、四国から舟で明石海峡を渡って来た舞子が、浜で踊ったという話がある。 この句は、今でもそういう神楽の一団があることを思わせる。志摩の安乗岬あのりの漁村で四百年以上 続く「安乗文楽ぶんらく」も、浜で演じる神楽だ。「島づたひ」が素朴で貴い。
枯草に乗りたる鳥の軽さかな
栃木 石塚千穗子
庭の隅や路傍の草が枯れた景を思い浮かべる。枯れ草には乾いて軽いイメージがあるが、この 句はその枯れ草に小さな鳥が乗っていて、その鳥が軽いと詠む。荒涼とした枯れ草に無心に乗っ ている可憐な鳥に、体の重みといのちの重みを感じたのだろう。「軽さかな」に写生の目がある。
原爆図見て白鳥の群とゐる
埼玉 中村万十郎
この句の原爆図は、丸木位里と俊夫妻によるものだろう。悲惨な絵を鑑賞してから湖か川に飛 来した白鳥を見たのだ。原爆の死の世界から白鳥の生の世界に。生の世界に戻った作者は、「白 鳥の群とゐる」と詠んだ。この図を見たからこそ、「群とゐる」という表現を得たのだろう。
雑詠-夏石番矢・選
狼に首喰はれつつ君想ふ
京都 黒金祥一
作り事俳句の弱さも見せながら、相応のインパクトとアイロニーがしっかりと内在する秀句。 テーマはむろん、愛欲。動物の性とは違う人間の愛欲は、底知れない闇。たとえ瀕死の状態でも、 むしろ鮮明になる。この句では、愛欲を超えた純粋な愛も、「君想ふ」から垣間見えている。
セーターを脱いで果てなき森へ向かう
福島 呼吸
同時投句の〈寒くて震えいつか炎となっている〉も、それなりのレベル。この句には、作者独 自の世界が暗示的によくまとめられている。真裸ではなくセーター一枚脱いで、日常世界を超え た無限の森林へ自分を解放する喜びと不安がよく伝わる。この森のなかで何が起きるのだろうか。
白菜を旨しと思ふ無位無冠
東京 山尾かづひろ
乱れた世間に虚名虚飾を求める人が多いなか、潔い心境を詠んだ佳句である。「白菜を旨し」(初 案「白菜の旨し」をこう添削)と思うところがいい。あの白菜の味わいに深い滋味を感じ取る境 地を慶祝したい気持になる。また、全体に淡い諧謔の遊びごころもにじみ出ている。
雑詠-行方克巳・選
クレヨンの仮名のはみ出す賀状かな
群馬 武藤洋一
幼稚園児か、小学校低学年のお孫さんからの年賀状ですね。クレヨンで書いた、踊るような字 が葉書をはみ出しています。いかにも力強い、楽しい賀状というべきでしょう。その喜びがストレートに伝わってくる一句ですね。
春雪はあの日の瓦礫隠さない
東京 大山清美
「あの日」とは東北地方を襲った大地震のことですね。七年たった今でも、まだ惨状がそのま まになっている所もあるようです。その事実を、春の雪は隠すことなく降りしきっています。
ボトルシップ寒夜銀河へ行くことも
埼玉 橋本遊行
ボトルシップとはガラス瓶の中に帆船などを組み込んだもの。私もウイスキーのデキャンタと して愛用しています。作者も寒夜酒杯を傾けながら、冬の銀河の彼方に心を遊ばせているのでしょう。
雑詠-西池冬扇・選
記紀になき神をまつりて雪はげし
神奈川 鈴木代志子
「記紀になき」に加え「雪はげし」といえば、「まつろわぬ」神アラハバキを思い起こす人も 多かろう。記紀とは別の系譜に属する古代の神々は、今もって我々を遠いロマンの世界へと誘う。 私は古代の精錬に興味があるが、それにまつわる神々もその一つ。思わず特選にとってしまった。
土塊に風花ひとつ吸はれけり
岡山 生田恵祐
冬耕の一シーンであろう。土塊はただの土ではない、人間の営みがあってこそ自然がみせる姿 である。この句は身を切る寒さの中で行われた畑の天地返し(好きな言葉だ)という人の営みで 現れた黒い土の塊をクローズアップしたもの。そこに風花が吸われゆく、リアルな景の美である。
頑として冬至南瓜のありにけり
北海道 三泊みなと
この句の面白さは「頑として」という表現で確かなものとなった。人間はしばしば、しかも突 然に、見慣れたはずの物体の存在を、非常に特殊なものとして感じることがある。ここでは冬至 南瓜がそれ。冬至南瓜が「頑として」としかいいようのない確からしさをもって存在している。
雑詠-能村研三・選
昭和93年の乾布摩擦や寒に入る
石川 前 九疑
今年は昭和で換算すると昭和93年となる。おそらく昭和の時代と共に歩んで来られた方なのだろう。 「昭和の健康法」とも言われた乾布摩擦は、戦前の国民学校の時代から校庭に集められて 一斉に行われた。作者は今もなお寒中でも乾布摩擦をして元気に過ごされているようだ。
雪の街無声映画のごと術後
秋田 清水けん一
雪がもたらす静寂。まるで雪が全ての音を吸い取ってしまうみたいに雪が降りつづく光景は、 無声映画を見ているようだ。病にかかり手術を余儀なくされたが、無事に手術もおわり段々と体 も快方に向かった。癒えし身には静かな雪の風景であった。
夫婦といふ二句一章や去年今年
東京 杉林秀穂
一昔前までは夫唱婦随という言葉が聞かれ、美徳とされていた。二句一章の俳句は二つの句文 節からなり二つの情景を取り合わせることによって新しい次元を切り拓くことができる。夫婦そ れぞれの個性を大切しながら、それを互いに理解することで理想的な夫婦像ができあがる。
雑詠-原 和子・選
青雲のむかしを探す初鏡
大阪 秋山具輝
新年になり初めて向かう鏡には、身繕いの中にも改まった気分があり、身の引き締まる思いが する。かつて「青雲の志」を立てた若かりし日の姿を鏡中に探す。初鏡というと素の自分が写る 嘆きの句が多いが、掲出句の清々しさは初鏡にふさわしい。
鳶職の空より交はす御慶かな
三重 平野 透
新年の祝詞が交わされるのは、地上ばかりではない。仕事始めの祝詞は生業とする場でも行わ れる。鳶職ともなれば、高く組まれた足場となる。晴れ晴れとした御空から降ってくる気風の良 い御慶は粋であり、めでたさも一入である。
探梅や梅の名の付く駅に降り
愛媛 後藤 郷
冬のうちから季節に魁けて咲く早梅には驚きと発見した喜びがある。この早梅が待ちきれずに 探し求めて歩く探梅には、梅の一枝に春を求める心がある。梅の名所か梅に縁の土地か、梅の名 の付く駅に惹かれて下車する。あてどない探梅行の始まりである。
雑詠-山尾玉藻・選
灯が点り窓現るる枯野かな
愛知 山口 桃
夕暮れの「枯野」を歩いていた作者ですが、行く手の夕闇が徐々に濃くなり、少々不安や淋し さを覚え始めたようです。そんな折、枯野の果てに灯が一つ点り明るい窓の形が浮かび上がった のです。人家とは述べず、「窓現るる」で臨場感をぐんと高めました。
煮凝りのよろけて坐り直しけり
東京 岡田みさ子
「煮凝り」の二句一章は多々ありますが、「煮凝り」そのものを詠んだ見事な一元句に出会い、 思わず膝を打ちました。擬人法に徹し、「よろけて」でその揺れざまを、そして「坐り直しけり」 で元の静かな形に収まったさまを、鮮やかに再現させました
双六の伸び縮みする時間かな
大阪 有松洋子
「双六」をすると、思いがけず駒を進められたり、逆に忽ち駒を後退させねばならぬこととな ります。この進んだり退ったりは、まるで人が生きてゆく道程のようであり、そんな思いを「伸 び縮みする時間かな」と捉えた点に納得させられます。
兼題
選者:大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)
今月の兼題…【会】
兼題-大高霧海・選
*山寺へ芭蕉の蟬に会ひに行く
東京 井坂 宏
阪神忌生者必滅会者定離
兵庫 井上徳一郎
寒昴会えぬたつきや拉致家族
長崎 井上映月
兼題-岸本マチ子・選
探鳥会横一列の白き息
神奈川 原 和三
千年の古墳に出会ふ冬田道
東京 池田秀夫
春近し灯す会津の絵蠟燭
埼玉 豊田靜世
兼題-高橋将夫・選
教会にけふも来てゐる狐かな
石川 燕北人空
町会の議題に上がる狸かな
埼玉 関田独鈷
傷舐めてまた会ひにゆく恋の猫
新潟 阿部鯉昇
兼題-名和未知男・選
ウォータールー会戦の丘冬すみれ
愛媛 境 公二
毛糸編む一目一目や会者定離
神奈川 正谷民夫
*山寺へ芭蕉の蟬に会ひに行く
東京 井坂 宏





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