●毎月25日発売
●A5判  ●定価1,200円

○ 月刊 俳句界 2018年9月号 ○
特   集
ああ!「寒雷」終焉
「寒雷」アルバム/加藤楸邨・主要作家代表句/エッセイ ほか
緊 急 特 集
平成30年7月
豪雨被害を悼む
特別作品50句
古賀しぐれ
ルポ 芸人農に帰る
加藤登紀子を訪ねる
セレクション結社
「ふよう」千々和恵美子
俳句界NOW
淵脇護
甘口でコンニチハ!
望月衣塑子(東京新聞記者)
俳人訪問
大久保白村
私の一冊
清水和代『撰集抄』
amazonでもご購入いただけます→
○ 別冊付録 / 投稿 俳句界 ○
質量とも類を見ない、圧倒的に充実した総勢29名の選者陣!

添削教室選者
折井紀衣、長嶺千晶(敬称略)
俳句トーナメント選者
石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
雑詠選者
有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、山尾玉藻(敬称略)
兼題選者
大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)


  【下の各画像をクリックしますと、今月の各コーナーの授賞作品がご覧いただけます。】


俳句ボクシング・今月のチャンピオン
選者:石井いさお、五島高資、佐久間慧子、堀本裕樹(敬称略)
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
三千院三千世界ただ若葉
福岡 榊原洋
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
噴水の中骨に傷ありにけり
埼玉 波切虹洋
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
夏の雨バロック真珠色の街
東京 中村わさび
俳句ボクシング・今月のチャンピオン
道をしへ賽の河原に来て止まる
愛知 井村晏通
雑詠
選者:有馬朗人、稲畑廣太郎、今瀬剛一、大串章、大牧広、櫂 未知子、角川春樹、古賀雪江、佐藤麻績、鈴木しげを、田島和生、辻桃子、夏石番矢、行方克巳、西池冬扇、能村研三、山尾玉藻(敬称略)
雑詠-有馬朗人・選
青葉木菟面打の鑿研ぎをれば
大阪 渡辺美紀代
能面打や仏師は森の中や山中に仕事場を持つ人が多い。気持を静め心を集中しやすいからであ ろう。この句では面打ちのために鑿を研いでいると、青葉木菟の声が聞えて来たのである。面打 のたたずまいが目に見えるようである。
父の日の田植機洗ふ月明り
岐阜 大野徳次郎
田植機を使ったり、それを洗ったりするのは、やはり男の人の方が多いのであろう。 それも一家の主、父の仕事である。田植機を洗っていると、月明りがさしてきたのであった。 父の日の六月の第三日曜日、田植機を洗いつつ、一日の仕事がこれで終わるとほっとした気持が佳く出ている。
石窟にいまだ住む人麦青む
京都 佐々宙
石窟に住む人と言えば、中国の黄河中流部流域の黄土高原を思う。 その地に住む人々は、今でも石窟に住み、農業を営んでいる。 時は中春、穂の出る前の麦の葉や茎が青々としている。大地の黄色と麦の青の対比が美しい。
雑詠-稲畑廣太郎・選
こんな日もあるさナイター消しにけり
千葉 岩瀬孝雄
口語と文語が入り混じった不思議な詠み方ではあるが、却って実感として伝わってくる。 贔屓チームがぼろ負けをしていて、もう逆転も絶望的になり、諦めてナイター放送を消す。 筆者の贔屓チームもこんな場面が非常に多いので何とも共感出来る。新鮮な視点からの表現が好ましい。
家見えてより筍の重さかな
神奈川 鈴木代志子
実際自分で掘った筍を持って帰っている情景が想像出来る。 沢山の筍を掘ることが出来て、意気揚々と提げて、いよいよ家が近付いてきた時、 ふと掘った時の疲れを感じ、又大量の筍が一層重く感じたのである。 あと一息というところでの微妙な作者の心持が伝わってくる句である。
鮎解禁君これよりは少年期
東京 瀬戸満智子
六月一日頃が鮎の解禁であろうか。釣り好き、特に鮎釣りが大好きな人を詠んでいるが、 待ちに待った鮎解禁の日にいそいそと出掛けて行くのである。 そしてシーズン中は釣りに夢中になり、まるで少年のように嬉々と過ごす。 釣り好きの人の心から喜んでいる姿が明るく伝わってくる。
雑詠-今瀬剛一・選
青楓水車の放つ水しぶき
東京 伊藤たか子
この作品は生き生きとして活気に満ちている。 「青楓」と水しぶきが作品の中で強く響き合っ ているところがいい。 青楓は水しぶきを浴びてより輝いて感じられるし、「水しぶき」も青楓を 映して青みがかって思える。 そして、その水しぶきのもとに「水車」がある。見事な情景描写。
更衣して太陽を跳ね返す
静岡 渡邉春生
この作品にも勢いがあると思った。更衣をした時の思いをよく捉えている。 白を基調とした衣 服を着たのであろうか。「太陽を跳ね返す」という表現がよく生きている。 もちろん、これは誇 張であるが、この作品においてはそれがよく生きている。 作品に強い響きと勢いを与えている。
大いなる赤子のあくびアマリリス
愛媛 坂本千惠子
満ち足りた赤ちゃんの様を大らかに捉えている。 先ず「大いなる赤子のあくび」という表現がゆったりとしていて大きい。 作者も側で様子を見ながら赤ちゃんの健康を喜んでいるのであろう。 次に「アマリリス」という季語が明るく響いている。作品に清楚な響きさえ与えていて嬉しい。
雑詠-大串章・選
鯉のぼり平成の世を泳ぎきり
愛媛 仙波美保
平成時代は来年四月三十日で終わる。 鯉のぼりにとっては今年五月が最後の「平成の世」となる。 平成を泳ぎきった鯉のぼりも、それを揚げ降ろしした人も感慨深いに違いない。 新元号はまだ決まっていないが、来るべき時代が戦争のない平和な時代であることを願わずにいられない。
難民の児等の涙や子供の日
埼玉 清水由紀子
やせ衰えて骨と皮だけになった「難民の児等」をテレビで見たことがある。 その大きな眼からは涙が零れ落ちていた。 不条理な戦禍のために故国を離れた子供たち。 なんの罪もない子供たちが何故こんなに苦しまねばならないのか。 座五が戦の無い日本の子らの幸せを思わせる。
母の日やはは恋ふこころ八十路にも
茨城 林きよ子
母の日に母のことを思っている。母への思いは年ごとに募ってくる。 叱られたことや怒られたことも懐かしく思い出される。 この年になって初めて分かることもある。実は私も昨年傘寿を迎えた。 そして以前よりしばしば母を思うようになった。作者の「はは恋ふこころ」がよく分かる。
雑詠-大牧広・選
夏の納屋父の軍靴の黄土色
長野 小澤隆
戦野を駆け回った父の軍靴。 板のように固くなって、まさに戦野の色となって納屋の隅に在る。 その父も今はおそらく彼岸の人となっていよう。でも、その軍靴は、七十余の歳月をたしかに物語っている。
ボルシチを啜りし白夜遥かなり
栃木 長谷川洋児
ボルシチはロシアの料理。日本でボルシチを啜りながらロシアの白夜を思っている。 「遥かなり」が表現に奥行を与えて、どこか旅情を誘う。 回想句にしても想像句にしても充分に共感を誘う。
原爆忌コップの水のすれすれに
埼玉 鈴木良二
かの日の大戦で二つも原爆を落とされた日本。 誰もが水を欲しがって死んだ。今は、いくらでも水の飲める時代。 だが、水を求めて死んでいった被曝者の苦しみは忘れてはいけない。
雑詠-櫂 未知子・選
一日をきれいに使ふ五月かな
兵庫 井上徳一郎
多くの人は、「今日もいちにちをうまく使えなかった」「無為のまま終わってしまった」などと悔やむことが多い。 この句の気分のよさ、羨ましいほどきっぱり言い切ったことに、大いに心惹かれた。
香水を纏ひ女の出来上がる
東京 向瀬美音
女性だから「香水」ではなく、香水で装うことによって「女の出来上がる」。 逆発想であって、「なるほど、この手があったか」と納得した。 まだまだ開拓の余地のある季語だと思わせてくれた作品である。
喝采のやうな雨音蕗畑
島根 東村まさみ
「蕗畑」はとても地味な季語。それを「喝采のやうな」という比喩をもって、いきなり華麗な世界に転じることができた。 直喩を用いた句は、そのたとえがいのち。華やかで少し切ない一句である。
雑詠-角川春樹・選
タクト振るたび新緑の迫り上がる
兵庫 石原糸遊
野外コンサートの景を思い浮かべた。 指揮者のタクトに合わせて、木々の若葉も音楽を奏でているという、生命讃歌の作品である。 あるいは、造化をつかさどる神のタクトをイメージしているのかもしれない。
萍や地球に確と五大陸
福岡 深町明
夏季に、池沼などの表面を萍が覆いつくすさまは、旺盛な生命力を感じさせる。 掲句では、萍の景から、映像を五大陸へと大きく飛躍、転換させたおもしろさがある。
尺蠖の走つてゐるのかも知れず
大阪 秋山具輝
尺蠖が、前身を屈伸させて進むさまには、おかしみがある。 作者が言うように、人間や外敵を察知しての退避行動とすれば、確かに尺蠖は「走つてゐる」のに違いない。
雑詠-古賀雪江・選
雲梯のしづく膨らむ梅雨晴間
東京 矢作十志夫
ひとしきり激しかった雨が止んだ。 梅雨の晴れ間である。雲の間を青い空が見え隠れして、雲の流れも迅い。 人気のない公園の雲梯に雨雫が大きく膨らんでは落ちる。 雨雫は白雲を映してきれいである。雲梯は、体育、遊戯施設であって、昔の公園には良く見られた。
喝采のやうな雨音蕗畑
島根 東村まさみ
日本の各地に自生している蕗は、葉柄が長く、この葉柄を取って食するのであるが、その葉は 腎臓形と言われる広葉である。 急雨にいち早く反応したのはこの広葉であって、その葉を打つ雨 音は激しく、 「喝采のやうな」激しさで作者を瞠目させた。思ったままの感動が良い。
人声はあきらかに夏渡月橋
大阪 阿久根良一
渡月橋は、京都嵐山の麓を流れる桂川に架かる橋。 背後の嵐山と調和してその優れた風光で京都の観光名所の一つだが、 五年前、水禍に見舞われ大きな被害を受け、又先頃再びその危険にあった。 そんな渡月橋を賑やかに渡る観光客の声は、万緑の中、正に夏全開の明るいものであった。
雑詠-佐藤麻績・選
平等院鳳凰ゆらす水馬
神奈川 盛田墾
宇治は平安時代貴人の別荘地であった。宇治と言えば平等院だが、なかでも鳳凰堂が有名。 それはいかにも藤原の栄華に思いを馳せるところと言える。 水にうつる鳳凰を眺め、その水に水馬を見たのであろう。 その水馬が鳳凰をゆらしているという一種の皮肉であろうか。
万緑や百面相の赤ん坊
宮崎 河野タキ子
赤ん坊は一人前の表情を見せる。欠伸をしたり嚏をしたり、まさに百面相。 見ていると飽きることがない。見えるかぎりの緑の季節に赤ん坊と対面していたら平和この上ないだろう。 因みに中村草田男の〈万緑の中や吾子の歯生えそむる〉の句から万緑という季語が広まったと言われる。
両の手で開く空豆孤独なり
福岡 岡本鞆子
蚕豆(空豆)はあの固い莢を剝くとビロードの敷物の上に鮮やかな緑の豆が現われる。 それはこの句が述べるように両手で剝くのである。 そしてこの瞬間の出現の仕方に、閉じ込められていた豆がいかに孤独であったかを思わずにはいられないのである。
雑詠-鈴木しげを・選
梅干すや筵にことば置くやうに
大阪 秋山具輝
塩漬にした梅の実を取り出して、一つ一つ筵の上に干していく。 土用の頃の直射日光によって 風味が増すという。晴天三日三晩の作業は根気がいる。 日中は一度裏返しそのまま夜気に当てる。 これを怠るといい梅干は出来ない。「筵にことば置くやうに」の比喩が適切である。
鮎を釣る四国三郎踏んまへて
兵庫 山尾カツヨ
坂東太郎は利根川。筑紫次郎は筑後川。四国三郎は吉野川の異称。 四郎、五郎はあるのかどうか。四国三郎は、霊峰石鎚山に発して、高知、徳島を流れて紀伊水道に注ぐ大河。 峡谷をなす所では鮎釣りも盛んであろう。下五の「踏んまへて」の表現が小気味いい。
花過ぎの金子兜太の墓前かな
東京 曽根新五郎
金子兜太の死はまだ記憶に新しい。今年二月二十日、九十八歳の生涯を全うした。 戦後の前衛俳句の旗手として作品、評論に秀れた行跡をのこされた。 掲句はそうした兜太を畏敬する作者の ぬかず真摯な態度のあらわれである。 七七忌を修し納骨のすんだ花過ぎの墓前に叩頭ぬかずく作者。
雑詠-田島和生・選
枇杷の実の熟るる和上の忌日かな
奈良 渡辺政子
「和上」とは奈良時代、唐から渡来した鑑真和上で、日本律宗の開祖。 幾度も渡航に失敗し、 失明したにも関わらず来日。 七六三年五月六日(陰暦)に死去。掲句は日本の仏教興隆に寄与した鑑真の忌日に併せ、熟した枇杷の実を詠む。 唐招提寺の和上像の温かさにも通い、異色の作。
どの児にも蛍寄り来る闇深し
沖縄 中島健
作者の住む沖縄には蛍が多いのだろうか。 子供たちが川のほとりへ蛍を見に出かけたところ、 無数の蛍が飛び交っている。 「ほうたる来い」と呼べば、蛍が飛んで来る。 蛍火に照らされて、 暗い闇の中に子供らの笑顔も浮かぶ。「どの児にも」に、作者の温かい気持も感じられ、優品。
山笑ふ中に寝転ぶ家族かな
広島 日野栄理子
長い冬をへて、山の木々が一斉に芽吹き、まさに「山笑ふ」晴れた日、家族総出で山歩きに出かける。 昼になり、リュックの弁当を食べ、お腹がいっぱいになれば、小鳥のさえずりを聞きながら、 ごろりと寝転ぶ。いかにも家族揃って山の生気に包まれているようである。
雑詠-辻 桃子・選
祭来と盥に鯉の泥吐かす
愛知 山口桃
夏祭が近づき庭の池から鯉を金盥に移した。 洗いや鯉こくにするため泥を吐かすのだ。 上五にく祭りの日が迫る高揚した気持が出ている。 「祭来と」の「と」は、間を置かず中七下五の動作に つながるニュアンスがある。 石田波郷の〈女来と帯纏き出づる百日紅〉の「と」を思い出す。
吊橋や谷底わたるほととぎす
東京 柴田孤岩
鳴く一声を待ち焦がれるところに季語「ほととぎす」の本意がある。 この句では、作者が吊橋を渡っていると、ほととぎすの声が下の方から聞こえてきた。 はっと思って見下ろすと深い谷の底を鳴きながら飛んでゆくほととぎすが一瞬見えた。 遥か下の方から聞こえたというのが面白い。
面打ちの胡坐の並ぶ夏期講座
大阪 渡辺美紀代
能面師が指導する面打ちの夏期講座だ。 面打ちは座職で、胡坐をかいて面を打つ。 能面師は、 普段は自分の工房で胡坐をかいて面を打っているのだが、 夏期講座なので大勢の生徒がずらりと 胡坐をかいて並んでいるのだ。「胡坐の並ぶ」が省略の効いた写生だ。
雑詠-夏石番矢・選
ほうたるの人魚に触れてみな消ゆる
福島 斎藤秀雄
なんとも美しく、奥深い童話の世界を開く秀句だ。 同時投句の他の句〈キリンからみづかけらるる子ら裸〉などのレベルも高いが、この句が抜群。 蛍のはかない光を消してしまう「人魚」の魔性。 その魔性の恐ろしさ強調せず、穏やかな諦念を秘める。一句が喚起する映像も甘美。
散ることを止めた桜の木がごつい
長野 神戸千寛
桜の中でもソメイヨシノは虫が喰いやすい品種。 年を経た幹は、単なる植物を超越した、ばけものの様相を呈する。 とくに開花もせず、生き延びている古木は、妖怪か癌細胞のような不気味さとふてぶてしさを感じさせる。 この一句の「ごつい」という俗語の含蓄深い響きが絶妙。
桜蘂降る極上の一人身に
神奈川 沼田樹声
これも独特の境地を詠んだ秀句。桜のはなびらを陽気に浴びるのではなく、落花後、雄蕊やがくなどが落ちてくるのを、 静かに落ち着いて浴びているのは、俳諧的風流。 「極上の一人身」の裏 には、無常感や孤独が控えているが、いまひとときは大満悦。
雑詠-行方克巳・選
祭来と盥に鯉の泥吐かす
愛知 山口桃
祭りのご馳走として鯉の料理が出されるのですね。 一句の調べにそのワクワク感が伝わって来ます。 また、泥を吐かせるという具体的な表現は俳句のような短詩形には大切なことですね。
背負ふ子に耳つかまるる祭かな
京都 嵯峨井洗子
なかなか元気な子供さんです。 祭囃しに呼応して、まるで馬上で手綱でも持つようにお父さんの耳を摑んだのでしょう。 お父さんもそれに応えてお馬さんのように跳ねてみせたりしたかも知れませんね。
しほのみさき逃げ場なし潮岬の大夕立
愛媛 境公二
岬道の半ほどで、突然襲ってきた激しい夕立ち。 「逃げ場なし」とは言い得たり、と感心しました。 ずぶ濡れになりながらも大夕立のすさまじさを十分堪能したのではないでしょうか。
雑詠-西池冬扇・選
新聞の香の立つ兜菖蒲の日
大阪 平尾徹美
新聞紙で兜を折ってかぶるのは誰しも経験があるだろう。 作者は新聞の印刷インクの匂いに気がつきいろいろなことを思ったのであろう。 この句は下五に子供の日とか端午の日を持ってこなかったのが良かったと思う。 菖蒲の日を下五に据えることで新聞まで勇ましくなったと思いたい。
てつぺんに一つ星乗せ草を干す
大阪 有松洋子
干し草をたばね積み上げたのであろう。 藁塚のようなものを想像すると良い、似たようなもの は欧州にもある。 その天辺に明星が輝いていたと想像する。農村風景としては大陸的な趣を感じてしまう。 ミレーの「晩鐘」、流れている曲はタンホイザーの「夕星の歌」では少し重すぎるか。
子が埋めし宝の近く蟬の穴
神奈川 坂田金太郎
子供は地に宝物を埋めるのが好きである。 私も美しいタイルやビー玉の類を庭に穴を掘って埋めた少年期の記憶がある。 どこにいったのだろう。この句は表現としては一句一章であり散文的だ。 散文も表現を純化していくと詩的趣をもつことがある。純化が詩的飛躍を促せば成功する。
雑詠-能村研三・選
逆しまに地図読む癖やパリ祭
鳥取 石渕さゆり
見なれた地図を逆さにして見てみると、おもしろい発見がある。 パリ祭はフランスの独立記念日を祝う行事だが、英雄のナポレオンがヨーロッパの統一を目指して各地に遠征した時も、 恐らくは地図を逆さにして、今までのことに囚われない発想が湧きおこったことだろう。
どちらかと言へば悪妻紫蘇を揉む
千葉 原瞳子
実際は日頃から「良い妻」であるのだろう。まして、紫蘇を揉んだ手は真っ赤に染まっていて、 本当の悪妻ならばこんな面倒くさい仕事などやるはずがない。 俳句の用でつい家を留守がちにすることへの自責の念から「悪妻」などと言う言葉が浮かんだのだろう。 俳味のある句である。
飛魚の空飛魚の太平洋
東京 曽根新五郎
初夏から夏、北上して産卵する飛魚、夏告げ魚とも呼ばれている。 水面から飛び出した飛魚の 白い腹が、一瞬空に光った。 飛魚は、大きい魚から身を守るために飛ぶのだそうだ。 「飛魚」の リフレイン、「空」と「太平洋」だけを強調しながら、省略を効かせた句になった。
雑詠-山尾玉藻・選
潮の香を沖に押しやり花みかん
愛媛 後藤郷
海に面した蜜柑山の光景でしょう。 一山が蜜柑の花の香に満ち満ちて、その芳香に呑み込まれているかのように日頃の潮の香が一向にしないのです。 作者はその様を「潮の香を沖に押しやり」 と捉え、蜜柑の花の香りを一層強く印象づけました。
地震の地の波に音なし姫女苑
長崎 岩本千鶴子
大規模な地震により津波の被害にあった地に佇んでいる作者でしょう。 今、海は穏やかで波音さえ立てず、辺りに咲く「姫女苑」が明るさを広げるばかりです。 しかしこの静けさや明るさが却って不気味で、作者の気がかりな様子が伺えます。
暑き夜の一点見つめフラメンコ
愛媛 野口寿雄
フラメンコは情熱的で甘美な踊りですが、ギター伴奏の変調で不意に哀愁を漂わせる踊りに転じることもあります。 そこに物語性を覚えるのですが、「一点見つめ」つつ舞う姿には激しくも深い思いが籠められていたのでしょう。 「暑き夜」が雰囲気を高めます。
兼題
選者:大高霧海、岸本マチ子、高橋将夫、名和未知男(敬称略)
今月の兼題…【生】
兼題-大高霧海・選
原爆忌生あるものの奈落かな
広島 別祖満雄
生涯の南瓜あの頃食べ尽くす
東京 薬丸正勝
地震越えて漲る生の青葉風
熊本 石橋みどり
兼題-岸本マチ子・選
田植え唄村に一人の新入生
鹿児島 宏洲弘
生き様を皺に刻みて涼むかな
埼玉 福田啓一
夏場所や生身ぶつかる肉の音
兵庫 井上徳一郎
兼題-高橋将夫・選
生来の男転がし蓮浮葉
大阪 三木亨
死の甘美生の執着たんぽぽ咲く
長野 神戸千寛
春愁の似合はぬ顔に生まれけり
大阪 秋山具輝
兼題-名和未知男・選
あと五年生きる覚悟の畳替
神奈川 日下光代
菖蒲湯やまた父の子に生まれたし
神奈川 川前明
竹生島へ初夏の船上周航歌
埼玉 牛島千鶴子





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